3.謎物
「アダマス営業経理部を代表して参りました。債権回収の件で……」
ビルの受付けでセラサイトがそう伝えていると、1人の男性が僕たちの方へと近いてきた。
僕がその男性のことを見つめていると、彼女がふと男性の方を向きニコッと微笑んだ。営業スマイルというやつだ。
セラサイトと男性は少しの談笑をした後、ビルの奥へと歩き出す。僕も置いて行かれないよう、慌てて2人の後を追いかけた。
ビルのとある一室に入ると、男性はソファに腰掛けた。そして男性は僕たちに座るよう勧めた。セラサイトは「お言葉に甘えて」と男性の向かいにあるソファに腰かける。僕も頭を下げて彼女の隣に座った。
「説明は先程ここに来るまでに行いましたので、省かせて頂きます。では、こちらの契約書に目を通し、細部まで問題なければサインをお願い致します」
セラサイトは書類を取り出しテーブルの上に男性に向けて置いた。そして彼女の言う通り男性は書類を持ち、コツコツとペンをテーブルに打ち付けながら目を通し始める。特に問題はなかったようで、男性はすぐに書類をテーブルに置き自身の名前をサインした。
それを確認したセラサイトは営業スマイルのまま口を開いた。
「ありがとうございます。では、謎物の方を確認させて頂きたいのですが……」
セラサイトがそう言うと、男性は隣に置いてあった鞄からカメラを取り出し、テーブルの上に置いた。しかし、彼女はそのカメラを一目見ただけで手に取ろうとしない。
僕が疑問に思っていると、セラサイトが穏やかな空気から一変し冷たい空気を纏った。
「私が言ったのはまだ鞄に入ったままの謎物の方であり、こちらの普通のカメラではありませんよ」
図星を突かれたのか、男性はまた鞄に手を伸ばすと素早くそれを手に取りこちらに構えた。一瞬の出来事で何も身動きが取れずにいると、僕の目の前にセラサイトが飛び出しカメラのフラッシュを浴びた。
男性の笑い声とパシャッという音の後、1枚の写真と思われる紙が宙から現れ、男性はその写真を取った。しかし写真を目にした瞬間、にこやかだった男性の顔は見る見る内に青ざめていった。
それを確認したセラサイトはテーブルに足をかけ男性の方に身を乗り出しながら言った。
「私の『大切なもの』はいかがでしたか?」
次の瞬間、男性の肩にセラサイトの蹴りが入り、男性は倒れ込んだ。どうやら気絶しているようだ。男性の手には写真が握られていたが、セラサイトはその写真を手に取るとビリビリに破いてしまった。
そして、側に落ちていたカメラを手に取ると、彼女はスーツのポケットから小さな石を取り出した。桜のような模様がある宝石だった。
次の瞬間、宝石が一瞬の内に光り出しセラサイトの手にピッタリと嵌まる短刀に変わった。
「どういうこと……?」
僕の呆けた声にセラサイトはこちらを軽く見ると、短刀で宙を切り裂く。すると、切り裂いたところに亀裂のようなものが出来た。彼女はそこに書類とカメラを放り込むと、僕の方に歩み寄り手を差し出してきた。
僕がその手を取ると、セラサイトは僕の手を軽く引っ張り僕を立たせた。
「今起きたことは後ほど詳しくお話致します。とりあえず、私達の仕事はこれで終わりですので。後は……」
セラサイトはそう言って倒れている男性を揺さぶると、少しして男性が飛び起きた。そんな男性に向かって彼女はニコッと微笑んだ。冷たい貼り付けたような笑顔だ。
「この件は上に報告させて頂きます。本日中に上からご連絡が来るかと思いますので、そちらをお待ちください。では、私達はこれで」
彼女は僕に視線で帰ることを伝えて来たが、僕は驚きであまり身体が動かず、ギクシャクとした動きで部屋から外に出た。目の前で繰り広げられた光景に色々な疑問を持ちながらも、僕は彼女と共にビルを出て本社への帰路を辿るのだった。




