2.デュアルネイチャー
セラサイトと初めての共同任務の日。今日の仕事内容は、とある物の回収。しかし、今日はあいにくの雨だった。
大きな鞄を持ち、傘を差して歩くセラサイトの後ろを僕も続く。コンクリートと靴の擦れる硬い音、それとは対照的の柔らかな雨音しか響いていないその時間は、何故か永遠に感じるほど長く思えた。
そんな沈黙に耐えられず、僕は思わず口を開く。
「あ、あの、セラサイト…さん……」
「セラサイトで結構です。あと敬語も不要です」
「あ、えっと、じゃあ……セラサイト」
「何でしょうか?」
セラサイトはその場で立ち止まり、こちらに振り返る。雨の水滴越しに見る彼女は、いつもよりも冷えた空気を纏っているように見えた。
僕が何も言わないことを疑問に思ったのか、セラサイトがコクンッと首を傾げる。今までなかった彼女の少女らしい一面を見て少しドキッとしながらも僕は口を開いた。
「あの、今日の回収する物ってどんなもの…なの?」
「事前に調べた情報では、奇妙な力を持ったカメラ型の『謎物』と呼ばれる物だそうです。なんでも、そのカメラで撮られた人の大切なものが写真として出てくるそうで」
「そ、それは、なんだかロマンチックだね…!」
僕の言葉にセラサイトは何故か呆れたような顔で僕の方を見た。何かおかしなことでも言っただろうか。自身の言った言葉を振り返っても、彼女が呆れた表情をする理由が見つからなかった。
あたふたしている僕を見て、セラサイトは更に呆れたような表情をし、ため息をついた。
「ロマンチック、確かにそのような考え方も出来るでしょう。ですが、こう考えることも出来ませんか?そのカメラで写真を撮られることで、撮られた人の弱みが露見してしまう。と」
確かにセラサイトの言う通りだ。自分にとっての大切なものは、いわば自分の弱みそのものだろう。それに何故僕は気が付かなかったのか。
その謎物自体には害がない一方で、その謎物を使われてしまうと周りに害を及ぼす。一見単純で無害そうに見えて非常に厄介なもの。セラサイトはそれにいち早く気付いていた。
「そんなに落ち込んでも、謎物回収自体がなくなる訳ではありません。早々に回収して問題が起こらないようにしましょう。今の私達に出来るのはそれくらいです」
僕の心情を察してか、セラサイトは少し穏やかな様子でそう告げた。そして、また雨が降る道を歩き出した。
水たまりに映る町並みはどこか異世界のように見えて、僕の不安は増えるばかりだった。
「今日ばかりは、神様にでも成功を願っておこうかな……」
僕がボソッと雨の中そう呟くと、その言葉が聞こえたのかセラサイトがチラッとこちらに振り返る。そして、困ったように微笑んだ。
「新幸様が思っているような方ではないと思いますが良いと思いますよ。願うことは自由ですから……」
「え?神様って優しい御伽噺に出てくるような感じじゃないの?」
「そういった方もいますが、この国の『欲望』を司る神様は自由気ままで気難しい神様だったと記憶しておりますね」
自由気ままで気難しい神様。実際のところどうなのか知らないが、そんな神様に願っても、願いを叶えてくれないのではないのだろうか。
僕がそんなことを思っていると彼女は、いつの間にか目の前に現れていた大きなビルの前で立ち止まり少し見上げる。
どうやらここが目的地らしい。
「神様は僕の願いを聞き入れてくれるかな?」
僕の力無い質問にセラサイトはこちらを向くことなく答えた。
「今の私達には知る由もないことでしょうね」




