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1.凡人たちの邂逅

「僕が新たな主石(しゅせき)ですか!?」


 どこまでも続いているような、そんな感覚さえ湧き上がって来る澄み渡る青空が広がる昼過ぎ。僕、新幸(にっこう)(みどり)はとあるビルの一室で衝撃を受けた。

 主石──それは僕が勤める会社、アダマスの役職であり、各部署及び会社全体から選び抜かれた様々なエキスパートの集まり。その人数は7名しか居ないとの噂だが、確かなことは分からない。

 そんな役職に僕は選ばれたというのだ。


 僕がまだ衝撃で言葉を発せない中、その任命を伝えた女性、人材督励部(じんざいとくれいぶ)の主石であるウレン・ナイトさんがニコッと微笑んだ。

 椅子に深く腰掛けた彼女からはどこか妖艶な雰囲気さえ感じられる。


「そんなに深く考えないでちょうだい。貴方の努力が実を結んだのよ」


 彼女はそう言ったが、そんなに簡単な話じゃないことも僕は理解していた。そんな僕を知ってか知らずか、ウレンさんは微笑んだまま僕の手に掌サイズの緑色の石を置き、話を続ける。


「これが貴方のキセキ、翡翠(ひすい)よ。主石にとっては命の次に大切なものだから無くさないように」


 キセキ。それは主石だけが持つとされる不思議な宝石。その存在は噂程度にしか知らない。

 持つ者の願いを叶えるだの、所持した者は破滅への道を進むだの、ただのお守りで何の力も保有していないだの、キセキに関する噂は様々だが真相は知らない。


「それと、貴方には少し特別な贈り物も用意しているの」


 僕の様子を微笑みながら観察していたウレンさんが続ける。すると、僕の後ろに位置している扉がノックされ開くと、個性的なアシンメトリーのスーツに身を包んだ少女が部屋へと入って来た。どこからどう見ても贈り物を持っているように見えない少女は、コツコツと靴音を響かせながら歩いて行き、ウレンさんの隣に僕の方を向いて立ち止まった。


「この子が貴方への贈り物よ。今日からビジネスパートナーになるセラサイト」


 まさか少女自身が僕への贈り物だとは思わず、僕は驚いて彼女に視線を向ける。

 セラサイトと呼ばれたその少女は若葉のような瞳で、ジッと僕を見つめた。どこか静かで冷たい瞳は僕の心の内まで見透かしているようで。僕は咄嗟(とっさ)にその吸い込まれそうな彼女の瞳から目を逸らした。


「どうせなら自己紹介をしたらどうかしら?これから長い付き合いになるでしょうし」


 ウレンさんが僕たちに自分の子供を見るような視線を向けるとそう言った。それを聞いたセラサイトは彼女を一瞥(いちべつ)したあと、僕の方に向き直りこちらに数歩近づき、優雅にお辞儀をした。


「アダマス営業経理部(えいぎょうけいりぶ)所属、総監及び主石のセラサイトと申します。以後よろしくお願い致します」

「え、えっと……。同じく営業経理部所属、たった今主石に任命された新幸翠です。こちらこそ、よろしく…」


 セラサイトに続いて僕も自己紹介をしたが、彼女は何の反応もせずにただただ僕の目を見ていた。その目は何か言いたげだが、今の僕にはそれが何かまでは分からない。

 彼女に負けじと僕も彼女に視線を向けていると、不意にセラサイトは僕の目から視線を外し、僕の耳元へ顔を近付けると、小さなそれでいてはっきりとした声で言う。


「失礼を承知で申し上げますが、社会の窓が開いていますよ」


 その言葉に僕は慌てて窓を閉め、顔が熱くなるのを感じながらセラサイトの方を見た。

 彼女は笑っていた。心からの純粋な笑みじゃない、どこか人工的な達観しているような笑み。それを彼女は浮かべていた。


(僕はこれからどうなるんだろう?)


 自然に浮かんだその疑問の答えを僕は見つけることが出来ないまま、ビジネスパートナーとなったセラサイトとの生活が始まったのだった。

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