10.パートナー
「危ない!」
セラサイトの鋭い声が聞こえる。それと同時に僕の胸元にセラサイトが飛び込んで来る。
バンッ!
その音が聞こえる頃には、セラサイトが僕の胸の中で力なく倒れるところだった。僕は慌ててセラサイトを支え、呼びかける。
「セラサイト!」
「五月蝿いですよ。そんなに大声を出さなくても聞こえます」
彼女は生きていた。それも撃たれたとは到底思えないような無表情な顔で。
セラサイトはよろよろと起き上がると、左腕を押さえたまま銃声が聞こえた方へと歩を進める。ゆっくり、またゆっくりと歩いていく彼女を見ることしか出来なかった僕は、やっと銃声が聞こえた方へと目を向けた。
そこには銃を構え震える、秘書と思わしき女性がいた。
恐怖に満ちた顔で彼女を、セラサイトを見ている。
セラサイトはよろよろと自身の腰から拳銃を取り出すと、女性の方へと向けた、そして引き金に指をかける。
女性は恐怖のあまり銃を捨て、一目散に逃げ出す。僕が慌てて止めようと駆け寄るが、セラサイトはその背中に向けて拳銃を──。
「バンッ」
セラサイトがそう言った瞬間、どこからともなくアテナが現れ、秘書と思わしき女性に勢い良くぶつかった。女性は気絶したようだ。
僕が安堵のため息をつくと、セラサイトが僕の方をしっかりと見て言った。
「こんなことで、本当に撃つ訳ないでしょう。貴方はもっと私を知ったほうがいい。じゃないと、心臓がもちませんよ」
セラサイトは銃弾が掠ったであろう左腕を見て、あまり痛くないのか振ったり、手を握ったりしている。そして太もものポーチから包帯を取り出すと、怪我をした場所にグルグルと巻き始めた。
そして処置が終わると、僕の方に彼女は歩いてくる。
「本社に帰りますよ。私達の仕事は終わりです」
「え、でも契約取れてない……」
「それは会社に任せておけばいいんです。これだけの弱みを握れたら、後は簡単でしょうから」
「あ、そ、そうなの?」
セラサイトはコクンと頷く。そして踵を返すと、コツコツと足音を立てながら部屋を出ていく。僕も慌てて置いていかれないように彼女の後を追うのだった。
数時間後。僕たちはアダマス本社のビルに帰って来ていた。
荷物を持って飛行船から降りると、後ろから声が聞こえた。
「あれ?セラ、凄く怪我してない?もしかして上手くいかなかったのかい?」
後ろを振り返ると、セラサイトを心配そうに見つめる僕の元上司であるベリル・クラーヴェ総監が立っていた。
「ベリル総監!」
「やめてくれ。僕はもう君の総監じゃない」
「何の用?」
「え?あぁ、先生から伝言。君が見たがっていた論文を手に入れたから、早いうちに取りに来いってさ」
「分かった」
セラサイトとベリル総監、いやベリルさんは親しそうに話しながら、ビルの廊下を歩いていく。僕は少し間隔を開けて後ろをついていく。
そんな僕を見てか、ベリルさんが声を掛けてきた。
「僕達の関係を知りたいかい?」
「え?いや、そんなことは……」
「じゃ、独り言だと思って聞いてくれ。僕達は元パートナーだった。だが、いきなり解消されたんだ。成績も相性も悪くはなかったと思うんだけど、何故かね」
「そ、そうなんですか……」
そう言われると、何故か僕は責められているような気がした。そのためか、僕の視線は気付かない内に段々と下へと向けられていく。
「貴方が」
「え?」
「貴方が気にする必要はありません。彼は理由が分からないことに腹が立っているだけで、貴方を責めている訳ではないんです」
セラサイトはこちらを見ることなくそう言った。いつもは冷たいと思うその態度も、何故か僕を気遣ってくれているように感じた。
「ごめんよ。先生とも上手くいかないし、彼女とはパートナー解消されちゃうし、僕も気持ちの整理がつかなくてね」
「いや、大丈夫です。ところで、先程から言っている『先生』って…?」
セラサイトが振り返る。まるで、気にすることはないと言っているかのように。
「多分、近いうちに会えますよ」




