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13.セラサイトの過去

 次の瞬間、僕たちは大勢の人に囲まれた場所に立っていた。足元には白い博物館のような建物が入ったスノードームが落ちている。

 僕は先程のことを思い出して、慌ててセラサイトの方を見た。何事もなく立っているセラサイトは、まるで機械のような冷たい真顔で空を見上げていた。


「大、丈夫?」


 僕が声を掛けると、セラサイトは僕の方を向き「ええ」と答えた。

 そして彼女は僕の足元に落ちていたスノードームを拾うと、ジッと見つめて口を開いた。


「干渉型の謎物(めいぶつ)ですか。思わぬ収穫ですね」


 セラサイトは持っていた短刀で空間を切り裂くと、出来た亀裂にスノードームを放り込んだ。

 僕は訳が分からずポカンとしていたが、それに気が付いたセラサイトが短刀をキセキへと戻しながら説明してくれた。


「先程私達がいたのは、干渉型の謎物の中です。脱出方法は最も干渉されている人の死、資料で見たことのある謎物だったので対処出来ましたが、見たことが無ければまだ謎物の中だったでしょうね」


 セラサイトはそう簡単そうに言ったが、僕はまだ頭がこんがらがっていた。

 謎物、干渉、死。あまりに聞いたことのない組み合わせを一度に聞くと、人間頭がオーバーヒートするのだと僕はこの時学んだ。


「つまり、さっきのは幻ってこと?」

「そうとも限りません。先程起こったことは現実ですから」


 さらに分からなくなった。先程のは幻でも空想でもなく、ちゃんと起こった現実。

 僕が頭を抱えていると、セラサイトが呆れたように微笑んだ。


「そう難しく考える必要はありません。そして先程のことを覚えておく必要もありません」


 その言葉を聞いて僕は思い出した。

 セラサイトが母親を見殺しにしたと言われていたこと。セラサイトに似た女性と少女が彼女を追い詰めようとしていたことを。

 そこで僕は思い切ってセラサイトに聞いてみることにした。


「ねぇ、セラサイト。さっきの……見殺しにしたってどういうこと?」


 僕がそう尋ねると、聞かれてしまった、というような表情をしてセラサイトがため息をついた。そして時間を確認すると、セラサイトは側にあった壁に背中を預けて話し始めた。


「私と母は雨の降ることが少ない辺鄙(へんぴ)な場所に住んでいました。そこでは犯罪がごく一般のように扱われていて、明日を生きるのでさえ難しいような場所でした。ある日、母が慌てながら私にテントの中に隠れているよう言いました。もちろん、私はその指示に従いました。ですが、そのせいで……母は死にました。私を庇ったんです。その後、私は結局犯罪者に捕まり、奴隷市に売られました。それが3歳頃のことです。そして紆余曲折あり、今はアダマスにいます」


 セラサイトはそう語り終えると、僕の方を見た。


「思っていたのと違いますか?」


 セラサイトがそう尋ねてくる。確かに、僕は彼女のことを普通の家庭で普通に育った女性だと思っていた。だから、思っていたのと違うというのは合っている。

 でも、僕が伝えたいのはそうじゃない。


「確かに、思っていたのとは違うけど。でも、セラサイトが今生きて僕のビジネスパートナーになってくれてるのは凄く、嬉しいかな」


 セラサイトが微笑む。いつもとは違う人間じみた笑み。

 それを見て僕は心の底から安堵した。彼女もちゃんと人間なんだと理解したからだ。


「では、支部の拡大について話に行きましょうか」

「うん」


 そう言って、僕たちは商談へと向かうのだった。

 しかし、セラサイトの活躍で商談はたったの5分で話し合いが終わった。そこで僕たちを囲っていた人たちがこの権力者の指示であったことを知った。

 僕は改めて彼女の実力を目の当たりにしたのだった。

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