12.真っ白な空間と真っ赤な記憶
ビオンさんと会った後、僕達は隣国であるラムヌスへと足を運んだ。今日の仕事はラムヌス支社の拡大について、その土地の権力者と話し合うらしい。
だが、僕らはラムヌスに降り立ってすぐに大勢の人に囲まれた。顔は布で隠していて男性かはたまた女性かも分からない。
ただ、危ない雰囲気だということは理解出来る。
「逃げましょう」
そうセラサイトが小さく僕に呟いた時、僕らを囲っていたうちの1人が僕に向けて何かを投げ付けてきた。すぐさまセラサイトが庇ったが、辺りが眩しい光に包まれ僕は目を開けることが出来なかった。
目を開けた時そこは博物館のような場所だった。
「ここどこ?」
辺り1面真っ白で、建物以外の何もない場所。
僕が辺りをキョロキョロと見回していると、セラサイトがある一点を見つめて目を見開いていることに気が付いた。そちらに目を向けると、3歳くらいの少女が1人で角を曲がっていくところだった。
「待って!」
不意にセラサイトはそう叫んで、少女が消えた方に走っていく。僕も慌てて彼女を追いかけた。角を曲がるとセラサイトと瓜ふたつの女性が立っていた。その足元には先程の少女がいた。
ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべる女性と少女に不快感を覚え、僕は思わず1歩後ずさる。
『あなたがおかあさまをみごろしにした』
少女がそう言った。セラサイトは『母親を見殺しにした』。そんな訳無いと分かっていても、どうしてもその言葉が僕の頭の中を埋め尽くす。
そんな僕を知ってか知らずか、セラサイトは僕を庇うように彼女らの間に立った。
「違う。あれは私には止められなかった」
『止められなかった?止めなかった、の間違いだろう。あのときアンタが飛び出していれば、お母様の命だけは助かっていたかもしれない』
女性が応えたセラサイトに向けて声を掛ける。どういうことか、全く分からない。彼女たちは一体誰でセラサイトとどういう関係なんだ。
『認めなよ、アンタが殺した。アンタがお母様を──』
「そうだね。そうかもしれない」
セラサイトがそう言った。と同時に女性と少女が一層ニヤッと笑う。そして風のようにこちらに駆け寄ると僕を押しのけて女性と少女がセラサイトにまとわりつく。
「セラサイト!」
僕が慌てて叫ぶが、彼女は目を瞑っていて、こちらの言葉は聞こえていないようだった。
その瞬間、ふと気が付いた。先程からずっと女性と少女がセラサイトに向かって「お前のせいだ」と呟いていることに。
そして、それを事実のように受け入れているセラサイトに。
「違う!!」
次の瞬間、僕は叫んでいた。
そんな僕を驚いたようにセラサイトを含む3人が見つめている。
「セラサイトはそんな人じゃない!何があって、どんな想いをしたのか僕には分からない!でも!どんな理由があろうとも、彼女が誰かを殺すなんて絶対にない!!」
セラサイトの目が大きく見開かれる。そして呆れたように微笑むと、自身のポケットからキセキを取り出した。
彼女が深呼吸をすると、キセキが短刀へと変わる。
「もう少し茶番を見ていようと思いましたが、やめました。ここでこのくだらない茶番劇は終わりにしましょう」
セラサイトはそう言うと、短刀を女性の首へと振り下ろす。
彼女が本当に人を殺してしまう。そう思った僕は慌ててセラサイトの方へと走り寄るが、短刀を振り下ろされた女性は煙のように跡形もなく消えてしまった。
続けてセラサイトは足払いをして少女の姿をした何かも消すと、自身に向けて短刀を構えた。
「ちょ、何やって…!」
「私を……」
「え?」
「私を信じてください」
セラサイトはそう言うと自分の胸に短刀を突き刺した。




