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えぴそーど 〜にじゅうろく〜


「ほんわか堂」の店先には、小さな黒板が立てかけてあります。

そこには、ほとりの手書きで、こんなふうに書かれているのです。


「はなれて」くらしていても いつかは「なれて」いくもの

急にそうなるのも つらいですよね?

すこしずつ ちょっとずつ

「はなれて」から「なれて」になっていけば

ちょうど良いきょりかんになると思うんです


「ほんわか堂」

今日も ふわっと あいています。

あなたのお悩み、少しだけこぼしてみませんか?


~おやこばなれ~


***


「あの子、また未読だわ。既読になってもスルーだし。テクノロジーが便利過ぎるのも考えものね。一緒に住んでいた頃は、ママ、こんなに心配しなかったのに」


ハルカママは心配症です。


「ああん、もういてもたってもいられない。結局私から行くしかないのよね」


ハルカママは、上京する事にしました。


「そう言えば、あのお店、やっているかしら?」


***


「またママからだ。わざと未読にしてるのに、どんどん連投メールしてくる。ほんと心配症なんだから…既読だけしとくか。あ、やば、そろそろ行かなくちゃ」


返信もせずスマホを閉じました。ハルカは、いつもこんな感じです。


「あら、既読になったわ!」


ハルカママは、目を輝かせます。


「…早く返信来ないかしら。たぶんスルーだわ。ふふ、でも今回はそれでいいの。私内緒で東京に行っちゃうから…って言うかもう東京に来ちゃってるし。親しき仲にもサプライズありね!」


ハルカママは、いつになく余裕です。


「えーっと、たしか、この辺だったかしら?あれあれ?この地図アプリくるくるしちゃって全然起動しないわ…どうしましょう」


キョロキョロしているハルカママの目の前に、「ほんわか堂」があらわれました。


「あ、あったわ!」


***


ほんわか堂ののれんが、風にふわりと揺れました。


「いらっしゃいませ…あ、ハルカママさん!」

「その節はどうも」

「どうされたんですか?」

「たまたま近くまできたもので」


(たまたまじゃないけど)


「そうだったんですか」

「あの、お陰様で、ハルカがこの春に大学生になりました」

「それはおめでとうございます」

「ありがとうございます…あのハルカは、あの後お店には来ませんか?」

「いえ、あれ以来は来てませんね」

「そうですか…」

「何か浮かない顔してますね?お悩みですか?」

「…ええ」

「良かったらお聞かせ頂けますか?」


ハルカママは、堰を切ったように喋り始めました。


「大学入学当初は毎日の様に連絡があったんですが、このところあまり連絡が来なくなってしまって…忙しいのは分かっているんです。でも色々と聞きたくなってしまう」

「はい」

「最近は、メッセージ送っても、既読どころか未読スルーも多くなってしまって」

「もしかしてハルカママさん、返事来ないのに、連投メールしているんじゃないですか?」

「あ…」

「図星だったようですね」

「いけないのは分かっていても、つい送ってしまうのよね」

「気持ちはわかります」

「ずっと一緒にいたから、気になってしまって。今何やっているか?とか、授業どう?とか、アルバイトやっているの?とか、サークル入ったの?とか、新歓コンパでお酒飲んでないよね?とか、彼氏出来たの?とか、つい聞いてしまうんです」

「え?彼氏出来たんですか?」

「まだいないと思う。初めての一人暮らしで忙しくてそれどころじゃないみたい。たぶん…」

「そうですか。そういえば、今日はハルカさんと会う約束してるんですか?」

「え?いえ、連絡せず、いきなり来てしまいました」

「ふふ…ちょっとお待ちくださいね」


ほとりは、お茶を淹れました。


「ハルカママにお出しするお茶は、"落ち着くお茶"です」


ハルカママは、一口飲んでみました。


「なんかスーッとして、気分が落ち着きますね」


ほとりは、そっと小さなはこを棚から取り出し、紅いマシュマロを一つ、懐紙の上に置きました。


「ハルカママにぴったりのおくり物です」

「あら?紅いマシュマロ…これって?」

「ええ、以前ここでハルカさんが食べた白いマシュマロと色違いです」

「食べていいですか?」

「どうぞ」


ハルカママは、だいじに口に運びました。


「うん。美味しい…ほんのり甘酸っぱくて優しくて、ふわっと包み込むような味ですね。なんか涙が出そうになります」

「実はこのマシュマロは、白いマシュマロと親子の関係なんですよ」


懐紙のよこわきには、手書きのことばが添えてありました。


『離れていても、いつも心は繋がっていますよ』


***


「ほとりさん、ありがとうございました」


ママがお店を出ようとしたその時です。

ハルカママのスマホが鳴りました。ハルカからのメッセージでした。


【ママ、これから実家に帰ろうと思うんだけど、今日いるよね?】


「ほとりさん!ハルカから今メッセージが来たわ!」

「あら、で、なんて?」

「これから実家に帰ろうと思うけど、いるか?って……あれま、どうしましょ」

「ここに呼んだらいかがですか?」

「え?いいんですか?…でも道わかるかしら」

「大丈夫ですよ」


ママは、ハルカに電話をかけました。


『ハルカ、実はママ、東京に来てて、今、ほんわか堂にいるの』

『え?!どうして?』

『う、うん、し、知り合いに急に呼ばれて…で、でも時間があったからお店に寄ってみたの』


(えへ、嘘ついちゃった)


『そか、どうしよう…』

『ほとりさんが、お店にどうぞって言ってたわよ』

『え?いいの?じゃあすぐ行くね』


「ほとりさん、ありがとう。ハルカ、ここに来てくれるみたいです」

「それは、良かったです」


ハルカは、急いでほんわか堂に向かいました。


***


ほんわか堂ののれんが揺れました。


「ママ」

「ハルカ…あら、お化粧覚えたのね。綺麗になって…見違えたわ」

「…ママ、これ」


ハルカは袋を手渡しました。


「え?なに?」

「ママ、今日は何の日か知ってる?」

「ん?何の日だっけ?……う~ん。テクノロジーに感謝する日??」

「もうママ、何言ってんの。ママお誕生日おめでとう!これ、プレゼント」

「え?誕生日?!」

「今日はママのお誕生日でしょ!」

「あは…そういえばそうだったわ。私、あなたの事ばかり考えてて」


(すっかり忘れていたわ、私ったら、てへ)


「ママ、開けてみて」

「何かしら?」


ハルカママは、ゆっくりと袋を開けました。


「二連時計ね。わぁ、可愛いわぁ」


木の良い香りが鼻をくすぐり、その手触りにぬくもりを感じます。


「この二つの時計は一枚の板から作られていて、木目で繋がっているのよ。これ、一つは私の家に飾るの。離れていても気持ちは一つってね」


ハルカママは、号泣してしまいました。


「ハ、ハルカ…」


ほんわか堂のやわらかい空気が、二人をふんわりと包みます。


「ママ、最近あまり連絡出来なくてごめんね」

「ハルカ、これ高かったんじゃ」(鼻声)

「そんなに高くないけど、わたし、あまり貯金がなかったから、アルバイトしてたんだ」

「アルバイト?」

「うん。だから忙しくて、なかなか連絡出来なかった」

「そうだったの」

「…ママ、ごめんね」

「いいのよハルカ。ママもそんな事知らずにメールばかりしてごめんね。彼氏が出来たんじゃないかとか、悪い男に騙されてるんじゃないかとか、色々送っちゃった」

「悪い男なんて出会うわけないじゃない。大丈夫だよ。ママ」

「ハルカ、このためにアルバイトしてくれたのね」

「うん」

「ママ、一生大事にするわ」


ハルカママは、ハルカをギュッと抱きしめました。


***


その後、ほんわか堂では──

ハルカママとハルカが記した“ありがとう帳”の名前の下に、こんなメッセージが浮かび上がりました。


『アナログも大事ね。これで安心して子離れできるわ!(たぶん…) 心配症なハルカママ』

『サプライズ成功!あと…初めての彼氏が出来ました!(ママには内緒ね) ハルカ』


「あら!ハルカさん、これはママに内緒にしなきゃね。秘密も時には必要よね」


ほとりが、いつものように急須を洗いながら、ぽつりとつぶやいていました。


「今日も、だれかの心配事が、やさしくほぐれますように」


【おくり物】

紅いマシュマロ

メッセージ:

『離れていても、いつも心は繋がっていますよ』


**次にのれんをくぐるのは、もしかすると“あなた”かもしれませんね**

        

えぴそーど ~ご~ と併せて読んでみてください (^-^)

https://ncode.syosetu.com/n4944lp/6/

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