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えぴそーど 〜にじゅうご〜


「ほんわか堂」の店先には、小さな黒板が立てかけてあります。

そこには、ほとりの手書きで、こんなふうに書かれているのです。


おなじことをくりかえす

それって けっこう大変なことだとおもうんです

あきたりせず つねにおなじことを ひたすらくりかえす

たくさんくりかえしていくと 何かがかわるしゅんかんや

ひらめきがうまれたりするんです

あなたもそんな経験ありませんか?


「ほんわか堂」

今日も ふわっと あいています。

あなたのお悩み、少しだけこぼしてみませんか?


~つきぬけたマンネリ~


***


『これが、メンタルエネルギーですね!』


このフレーズで、一時期ブレイクしたマジシャンLync。

その当時は、お茶の間で見ない日はないほどメディアに露出していました。

…ですが、そのブームも一過性のもので、最近では地方営業が主な仕事になっていました。


(これでいいのかなぁ。確かに今日も観客に受けたけど、このまま同じネタでやっていけるかなぁ。とはいえ、先方からはそれを求められているんだし、割り切ってやるしかないけど…)


──とその時、スマホの通知がなりました。

SNSのダイレクトメールでした。


(仕事かな?)


Lyncはメールを開けてみました。


【僕を、弟子にしてください】


「で、弟子?!何で俺に?」


【「あの人は今どこ?!」の番組を観ていたら、師匠が出ていました。とても素晴らしいパフォーマンスだったので、ぜひ弟子入りしたいと、メールさせていただきました。マコト】


「もう師匠になっているし。いつの映像をみたんだ?!」


メールを読み終えてふと見上げると、ほんわか堂が目の前にありました。


(あれ?!ここにこんなお店あったかな?“あなたのお悩みこぼしてみませんか?“かぁ…何か面白そうなお店だ。入ってみるか)


***


ほんわか堂ののれんが、風にふわりと揺れました。

やさしい雰囲気の女性が出迎えます。


「いらっしゃいませ…奥のお席へどう…あ、もしかして、Lyncさんですか?!」

「え、あ、はい」

「やっぱり!」

「よくわかりましたね」

「はい!この前“あの人は今”の番組で観たんです!」


(はは、また、それか…)


「”今ここ”だったんですね!」


(ちょっとうまい)


「たまたまお店の近くを通りかかって、気になって入ってみました」

「何か、お悩みですね?」

「え?何でわかるんですか?」

「これが、メンタルエネルギーですね!」

「はは、それ僕の決め台詞ですね」

「ふふ…ちょっと言ってみたかったんです。あれ?!もしかして図星でした?」

「え、ええ」

「よろしかったら、お悩み、こぼしてみませんか?」

「大した悩みじゃないんですけど」

「言葉にするだけでも少し気持ちが楽になるかもしれませんし、差し支えなければ」


Lyncは、話し始めました。


「あの番組を観たからわかると思うんですけど、世間的には僕は“あの人は今”的なんです。所謂一発屋。自分でも認識してます。でもそのお陰で今も飯を食わせてもらっているんです。地方営業が主なんですが、行く先々であのフレーズを使って盛り上げてる。クライアントからもそれを求められています」

「はい。あの番組を観なくても、わたし、覚えてましたもん」

「…嘘ですね?」

「……(ギクッ)」

「メンタリスト系のマジックもやるんですぐ表情読んじゃうんですよね。図星でしたね」

「うふふ」

「でも最近思うんです。このままで良いのかなぁって」

「そうなんですか」

「はい…あ、そうそう、ついさっきなんですが、あなた…えーっと」

「ほとりと言います」

「ほとりさんと同じようにあの番組を見た人から、SNSにダイレクトメールが届きました」

「へぇ、奇遇ですね。で、どんな内容だったんですか?私みたいなリアクションですか?」

「いえ…“弟子になりたい”って。っていうか、もう師匠呼ばわりでした」

「おお、それは良いじゃないですか」

「それを読んで余計に考えてしまいました。本当にこのままで良いのかなぁって。こんなマンネリなネタだけでやっていけるかなぁって。弟子を取る前に、マジシャンとして生きていけるのかなぁって」

「そうだったんですね……あの、ちょっと待っててくださいね」


ほとりは、お茶を淹れました。


「あなたにお出しするお茶は“ほうじ茶”です」


Lyncは、ひと口飲んでみました。


「美味しいですね。心が落ち着くなつかしい味です」


ほとりは、もう1杯お茶を淹れました。


「これも飲んでみてください。あなたにお渡しする“おくり物”です」

「おくり物?何でしょう?」


Lyncは、もう1杯のお茶も飲んでみました。


「ほぉ…これは意外な組み合わせだけど、おいしい。不思議と合いますね」

「はい。これは“ほうじ茶ミルクティー”です。1杯目のほうじ茶をアレンジしてみました」


ほうじ茶ミルクティーには、小さなメッセージが添えられていました。


『マンネリの先には、想像もしえない“光”がみえることもあります。その光を探しに行ってみてはいかがでしょうか?』


Lyncは、何かを悟ったような面持ちで、ほんわか堂をあとにしました。


***


その後、Lyncは今まで以上に技を磨き、あのフレーズをこれでもかと使い、地方営業に邁進していきます。

今までは予定調和な面もあり、観客もお付き合い程度に反応していることも多々ありました。しかし、まるで拍手のタイミングや音が変わっていきます。テレビで取り上げられた影響も少しはありましたが、それ以上に腕に磨きがかかり、マンネリをつきぬけたパフォーマンスを披露するようになったのです。


***


その後、ほんわか堂では──

Lyncが記した“ありがとう帳”の名前の下に、こんなメッセージが浮かび上がりました。


『究極のマンネリを手に入れるよう邁進します。 弟子を取ることを決めたマジシャン Lync』


ほとりが、いつものように棚を片付けながら、ぽつりとつぶやきました。


「今日も誰かのマンネリが、少しだけ新鮮になりますように」


【おくり物】

ほうじ茶ミルクティー

メッセージ:

『マンネリの先には、想像もしえない“光”がみえることもあります。その光を探しに行ってみてはいかがでしょうか?』


**次にのれんをくぐるのは、もしかすると“あなた”かもしれませんね**

        

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