魔法だと? ならば火縄(これ)をくれてやる
「――なるほど。この大陸はマギアと呼ばれ、人間、エルフ、ドワーフ、そして魔王率いる魔族が領土を争っておるわけか」
エルフの里の長が住まう、大樹の館。
私は、出された果実酒をあおりながら、世界の大まかな情勢を頭に叩き込んでいた。
私の前に跪く長と、先ほど救った少女リリアは、私の物怖じしない態度と圧倒的な王の威圧感に、終始緊張の面持ちを崩せないでいる。
「はい、信長様。現在、人類の領国である『グラン帝国』は腐敗し、迫り来る魔王軍の脅威に怯えております。我らエルフも、森を追われかねない危機にあり……」
「ふん、どこの世界も小物の権力争いは変わらんな」
私は鼻で笑った。帝国の腐敗など、尾張を囲んでいた周囲の無能な大名たちと同じだ。
それよりも、私の興味は別のところにあった。机の上に、私の愛銃――あのオークを吹き飛ばした火縄銃をドン、と置く。
「リリアと言ったな。貴様たちの『魔法』とやらは、この銃に込められた光の力と同じか?」
「いえ……それは驚くべきことです。その鉄の筒からは、魔法の呪文も、魔力の発動陣も見えませんでした。なのに、信長様が引き金を引いた瞬間、体内の膨大な魔力がそのまま純粋な破壊の光となって弾け出たのです。そのような魔導具、聞いたことがありません」
リリアの言葉に、私は確信を得た。
この火縄銃は、私の「天下を獲る」という執念、そして戦国を駆け抜けた覇気に呼応して、この世界の理(魔力)を自動で弾丸に変換する規格外の得物へと進化している。
「だが、これ一丁では戦はできん。戦とは、個の武勇ではなく、数と仕組みで勝つものよ」
私がそう呟いた時、大樹の館の扉が、凄まじい勢いでバタン!と開いた。
「おい、長! 人間の分際でオークの群れを全滅させた化け物がいるってのは本当か!?」
入ってきたのは、人間の半分ほどの背丈しかないが、岩のように強固な筋肉と、むさ苦しい髭を蓄えた男だった。その手には、巨大な鍛冶用の槌が握られている。
「これ、ガルド! 信長様の前であるぞ、無礼な!」
長が慌てて一喝する。
ガルドと呼ばれたその男は、エルフの里に身を寄せている偏屈な『ドワーフの天才鍛冶師』だった。
ガルドは私の前に歩み寄ると、私の顔ではなく、机の上の火縄銃を凝視した。その職人特有の鋭い目が、一瞬で驚愕に染まる。
「な、なんだこの美しく精密な鉄の筒は……!? 鉄の鍛え方も、機構の噛み合わせも、我がドワーフの最高技術すら超えてやがる……! おい、これを造ったのはどこの天才だ!」
ガルドが銃に手を伸ばそうとした瞬間、私はその手首を、万力のような力で掴み上げた。
「おい、うつけ。オレの獲物に断りなく触るな」
「ぐ、おぉっ……!?」
ガルドが痛みに顔を歪める。ドワーフの怪力を、人間の私が片手で完全に押さえつけたのだ。
私はガルドの手を放し、冷徹に言い放った。
「これを造ったのは、日ノ本の職人たちだ。ガルドとやら、貴様は鉄を叩けるな? ならば、これと同じものをあと『三千丁』作れ」
「さ、三千丁だと!? バカを言うな! こんな緻密な細工、俺一人で一生かけても数十丁が限界だわ!」
ガルドは首を激しく振った。だが、私は不敵にニヤリと笑った。
「一人で造るから遅いのだ。鉄を溶かす者、筒を伸ばす者、からくりを組む者、作業を細分化して同時にやらせれば、百人の凡夫でも一日に何丁も造れる。これを『分業』という」
「作業の……細分化……?」
ガルドの目が点になる。この世界には、まだ工場による大量生産という概念がない。
「さらに、エルフの魔法でこの銃身に『魔力の集束陣』を刻み込め。そうすれば、オレの覇気がなくとも、一般の兵士が魔力を込めるだけで光の弾を放てるようになるはずだ」
私の提示した、歴史上誰も思いつかなかった【ドワーフの鍛冶技術×エルフの魔法×現代の大量生産】というチート兵器のビジョン。
ガルドは全身に鳥肌を立て、リリアもまた、その恐るべき発想力に息を呑んだ。
「魔法の呪文もいらず、誰でも一撃でオークを殺せる鉄の杖……。おいおい、あんた、この世界をひっくり返す気か?」
ガルドの口元が、職人としての歓喜で歪む。
「当然だ。オレは第六天魔王・織田信長。この世界の神仏がオレに挑むというなら、その魔法ごと、この火縄(魔導銃)で撃ち抜いてくれるわ」
こうして、世界を揺るがす最強の武器『魔導火縄銃』の開発が始まった。
異世界の常識が、私の手によって内側から崩壊を始めていた。




