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第8章 貧乏学生の愛の巣


東横線は東京で暮らす人には憧れの線。中目黒や慶応大学のある日吉、

横浜まで続くこの路線は人気があって住むには少し高い。

私が住んでいる新丸子は川崎市になるので、

わりと物価も安く古い商店街や丸子温泉もあって、住み易い。

今は会社の関係で中央線の西荻窪にすんでいるが。

多摩川の河川敷で、二人並んで空を眺めていたあの頃が懐かしい。

多摩川を越えると田園調布の豪華な屋敷から一変して庶民的な家が続く。

お金のない二人はよく何駅も歩いてあちこち行っていた。

新宿か渋谷くらいはよく散歩したものだ。もっぱら、デートは図書館か公園。

お腹が空いたら学食か貧乏学生には嬉しい学生街の定食屋。

若いからご飯は半分、悠が食べる。余ったおかずもきれいに食べてくれる。 

一番の贅沢は新宿にある喫茶店。一杯200円で何時間も居座ることが出来る。

図書館も冷暖房が効いていて快適だが話をすることはできない。

学食は私の大学で、授業が終わるまで悠は待っていて、

安いAランチを頼み日替わりのメニューを楽しみにしていた。

友人や周囲の人は悠の容姿を褒めて羨ましがった。

有名大学の学生だと嘘をつく。みんなで旅行を計画するとついてくる。テニスもゴルフも上手い。

皆の人気者になる。悠の嘘に騙されて、皆は二人の交際を応援してくれる。

みんな実家も豊かで、高い車にも乗っている。あたり前にフレンチや有名シェフのイタリアンで

食事をし、ヨットだって持っている男の子もいる。そんな中で服装はブランド物ではないにしろ、

スマートでセンスのいい悠の着こなしは一目置かれた。

原宿の古着屋で店主と交渉して安く手に入れた物だとは誰も気づかない。

持っているバッグは千円もしないのに、悠が持っていると数十万円すると噂された。

悠もそれを否定しない。そう見えているならそれでいい。

ただ、帰り道「親が金持ちなだけで、いい暮らししやがって」と、

わざとガラの悪い口調で吐き捨てる。

「自分だって貧乏じゃ無かったら、頭も良かったし勉強だって嫌いじゃなかったし、

有名私立にも受かっていたんだ。でも、授業料も入学金も払えなかった。

だから高卒で住み込みのあるパチンコ屋さんで働くしかなかったのだ」と。

初めて身の上話をして悔しがった。

嘘をついて一番プライドが傷ついているのは悠の方だったのかも知れない。



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