第4章 結婚前に確かめたいこと
ある休日、彼を映画に誘った。少しアダルトなシーンがあると
話題になっていた、ラブストーリーだった。もちろん彼は乗り気ではなかった。
だから、女心がわからないのだと腹立たしかった。
「結婚する気があるのだったら、少しは付き合ってくれてもいいんじゃない?」と
珍しく怒って言ったら、大人しくついてきた。
でも、映画館ではほとんど寝ていた。
こんな時には前の彼の悠のことを思い出さずにはいられなかった。
棄てられた憤りと共に思い出すのは一緒に映画を見に行った時のこと。
こんな、ドラマチックなシーンの時は、繋いだ手をギュッと握ってくれた。
私は悠の肩に頭を寄りかかって、彼の激しく鼓動している
胸の音を幸せな気持ちで聞く。もうひとつの手がそっと髪を撫で、
その手が顎の下から押し上げて、優しくキスをする。
その後のストーリーなど頭に入らない。肩を抱き寄せられて、
悠の顎の下にある私の額に唇を押し付けてくる。
暗い映画館、ロマンチックなラブストーリー。いつの間にか主役は私たち。
その興奮冷めやらず、私たちは部屋に着くのも待ちきれないように
抱き合い求め合った。押しては寄せる快楽に身を委ね、
このまま繋がって死んでしまってもかまわないと思っていた。
あの時のことを思い出して、涙が溢れていた。
映画も悲しい場面だったので、あちこちからすすり泣きが漏れていたので助かった。
今の彼は、ぐっすり眠っている。やっぱり無理だと思い、
別れを決意したら腹が立ってきた。映画館から出て、
一番高価なお店に入り、おしゃれなカクテルやビールを飲みながら、
久しぶりのフレンチを食べて、ご機嫌になった。彼にもお酒を勧め、
断られるとすごんだり甘えたりして飲ませた。彼も珍しく酔っていた。
私も、彼との別れを意識したら何だか可哀想になってきた。
いつも、私の思うまま。彼には何も悪いところなど無かった。
部屋に着くと、私は「歩けない」と彼に甘え、ベッドまで運んでもらった。
ベッドに私を寝かせて出て行こうとした彼の首にすがりついてキスをした。
そして、半分泣きそうになりながら、
「どうして抱いてくれないの?そんなに私は魅力がないの?」と泣きじゃくった。
二人とも酔っていた。そして、勢いでひとつになれた。
しかし、そのセックスの味気ない事。彼が真面目で遊んでいないのはわかるが、
自分本位で動いて勝手に果てて眠ってしまった。
不能ではなかったが、満足のできないまま終わってしまって、
欲求不満の体を持て余していた。ザラッとした不快感、ぴったりと来ない違和感が。
私の運命の相手ではないと教えてくれているような気がした。
女性の体を愛せるのだから男色ではないらしい。
でも、この子供を作るためだけの単調な作業に一生付き合える自信はなかった。
たぶん、子供は生まれるだろう。その後は?セックスする必要は無くなる。
私は、きっとこの2ヶ月の生活のように愛を確かめ合うことのない
孤独な生活を強いられることだろう。欲求不満の聖女のような生活。
どこにも卑猥な影を落とさず、人々の模範になるような純粋潔白な日々を。
他人からは賢く家柄も良くエリートの彼と結婚したことを羨ましがられ、
親も安心させられるだろう。私はシャワーを浴びながら、
悠を求めてほてった体を慰めた。自分を棄てた男を思いながら、
自涜したら情けなくなって泣けてきた。もう悠はいないのだ。
私をもらってくれるのは、今は彼しかいないのだ。
そう思うと別れるのも躊躇された。




