第3章 子供ができない結婚の悲劇
従兄が、子供ができないことで親戚中から責められていたことがある。
親戚は、子供を産めない嫁を「役立たず」と陰で馬鹿にしていた。
「子供のできん夫婦はかわいそうじゃのう」
「昔は子供ができんかったら離縁されたもんじゃけぇ」
「可愛い顔をして、ええ嫁をもろうたと喜んどったけど、
子供ができんかったらいけんなぁ」そんな陰口を平気で叩いていた。
マタニティーハラスメントが当たり前だった時代、舅や姑は遠慮なく皆の前で、
「病院には行ったん?」
「今は子供ができんかったら、色々ええ方法があるらしいけぇ、
やってみたらどうなん?」と、しつこく言った。
顔を合わせるたび責められるのは、いつも嫁の方だった。
最初は仲の良かった嫁姑の間にも、大きなしこりができていた。
その話になると、従兄はどこかへ消えてしまい、嫁を助けることもしない。
たった一人の他人である嫁には、誰も守ってくれる人がいなかった。
私はたまらなくなって、「おばちゃんち、嫁いびりがすごいね。
こんなん見とったら、私も結婚したくなくなるわ」
と、親戚の前で皆に聞こえるように言った。
母は顔をしかめ、私を止めた。
でも、私は昔からこの叔母が大嫌いだったので、気にも留めなかった。
台所では、お嫁さんが炊事をしていた。
自分は食事も取らず、客をもてなし、山のような食器を一人で洗っていた。
私は何も言わず横に立ち、洗い物を手伝った。
すると、お嫁さんは私にだけ本当のことを教えてくれた。
涙ながらに、「抱いてくれんのに、
どうやって子供ができるんじゃろう?」と。
お見合い結婚で、もう二年になるのに、一度もセックスしたことがないという。
自分も処女なので、どうしていいかわからない。
母に相談すると、「そんなことを女の口から言うなんて、
はしたない。夫のなすに任せるのが女の礼儀じゃ」
と言われ、それ以上は相談できなかったそうだ。
子供ができないのは夫が不能だからだと、親戚中に言ってやりたい、と。
二年間も可愛がってもらえず、親戚の中傷からも守ってくれない。
自分から誘うのも恥ずかしい。
こんな夫と、どうやって生きていけばいいのだろう。
旦那は、自分の体に魅力を感じないだけなのだろうか。
自分に女としての魅力がないせいなのだろうか。
こんなこと、誰にも言えない。
でも、家政婦のように毎日こき使われ、
好きでもない夫と生活し続けるのは、もう我慢できない、と。
溜まっていた不満を一気に吐き出したお嫁さんは、言うだけ言って気が済んだのか、
「ありがとうね。びっくりしたじゃろう?これから結婚する貴子ちゃんに、
こんな話するのもどうかと思ったんじゃけど。
都会の人じゃけぇ、面白がって噂したりせんと思って。ごめんなぁ」
と謝った。子供ができないと、女のせいにされる。
今は健康な精子を持った若者が少ないとも聞く。
性欲も少なくなり、「草食系男子」という言葉もある。
友人なら安心して付き合えるが、恋人ならイライラするに違いない。
あの従兄夫婦がその後どうなったのかは知らない。
だが、田舎では一度結婚すると、簡単には実家へ戻れない。
マスコミではバツイチなど当たり前のように言われているが、
田舎ではそうはいかなかった。一度結婚したら、実家には帰れない。
戸籍が汚れるからと離婚を反対され、何か体に欠陥があるに違いないと噂される。
泣き寝入りをするのは、いつも女の方だった。
もし自分がそうなったらどうしよう。
結婚して、セックスレスだったら。不能だったら。
あるいは男色だったら。
そんなことは、結婚して同じ床に入らなければわからない。
しかも、それを離婚理由として親戚中を納得させるのも恥ずかしい。
親戚の葬式で初めて会ったお嫁さんから打ち明けられた話は、
あまりにも衝撃的で、今の彼との生活と重なり、私は不安になっていた。




