第2章 結婚と恋愛は違う
しかし、六月の梅雨の頃、
私は同棲している彼と一緒に過ごすのが辛くなっていた。
結婚するなら、優しくて甲斐性があり、安心できる相手がいいと思っていた。
たくさんの求愛者の中から彼を選んだ。
結婚する前に一緒に住みたいと言ったのは私の方だった。
真面目な彼は、「ご両親に顔向けができない」と、
正式に親へ挨拶に来てくれた。親も彼を気に入り、すぐにでも結婚をと言った。
けれど、まだ心の傷が癒えていない私は、一年の猶予が欲しかった。
男性と付き合うのは、恥ずかしながら二度目だった。
私の心は失恋の痛手でボロボロになっていた。
男性を信じきれないというトラウマを乗り越えられるか、自信がなかった。
しかも、それほど好きではない相手だ。
親が喜ぶと思って選んだ、条件を満たしている男性。
ときめきも、未来への希望もなく、どこか義務的に決めた相手だった。
恋愛と結婚は違う。
したことはないが、皆が口をそろえて言うので、間違いはないのだと思った。
同棲して、しばらくは幸せだった。
彼はとても親切で、私のことを大切にしてくれた。
三人兄弟の二番目。跡取りではないし、商社マンなので給料もいい。
田舎の実家の稼業を大きくしてくれそうな有能な人材だった。
何より父が喜んだ。彼の実家も裕福で、もしかしたら
私の家より大きな会社かもしれない。東京が本社なので、
田舎の名のある企業よりも年商は多いに違いない。
東京育ちのエリート商社マンが、本当に婿養子に来てくれるのだろうか。
父もまだまだ現役だった。
「長寿国になっとるから、もしかしたら孫が跡を継いでくれるかもしれんな」
そう言って酒を酌み交わし、哄笑している彼と父を、私は微笑ましく思っていた。
あの時、結婚していれば、私もこんなに迷わなかったのかもしれない。
しかし、同棲していた彼とは長くは続かなかった。
付き合って一か月以上経つのに、キスさえしてくれない。
男性を知っている私にも性欲はあった。
でも、女性から誘うなんて、そんなはしたないことができるわけもなかった。
彼も有名国立大学を優秀な成績で卒業し、
就職してからも一生懸命仕事に励んでいたせいか、女性経験がなかった。
しかも、淡白だった。セックスは子供を作るためのものだと言っていた。
結婚前に関係を持つなんて悪いことだと思っていた。
だから、同棲していても手を出さない。
同居人のような状態で、二か月が過ぎた。
「もしかしたら、不能者なのでは?」
そう疑い始めていた私は、結婚する前に確かめたかった。
性格の不一致で離婚したという話をよく聞くが、
たいていはセックスの不一致なのだそうだ。経験のない頃なら、
たとえセックスがなくても気にならなかったかもしれない。
性欲はあるものの、初めての人と一緒になって添い遂げていたなら、
死ぬまでこんなものだと疑いもしなかったはずだ。
しかし、情熱的な初恋をして、女性としての喜びを知ってしまった体が、
今の彼で満足できるのだろうか。
一緒に住み始めて二か月も何もない。
もし不能者なら、結婚する意味がない。
私は一人っ子なので、子孫を残さなければならない。
でも、この調子では子供などできるはずもなかった。




