第27章 娘を思う母心
貴子の29歳の誕生日に、見知らぬ電話番号から悠に電話がかかってきた。
貴子の母親からだった。
「悠君?貴子が全然結婚する気がないみたいなんよ。
もしかしたら、悠君のことが忘れられんのじゃないかと思って心配で。
あの言葉、まだ有効じゃろうか?」
「……あのこと?」
「もう結婚しとる?」
「ああ。あれから、ずっと待っていました。結婚を許していただけるのですか?」
「いや、それはどうか本人の気持ちは聞いとらんけど。
携帯に悠君の電話番号を入れておいたから。貴子から電話があるかもしれんけど。」
「ありがとうございます。貴子さんはご両親を一番大事に思っていらしたので、
お二人が反対している限りは絶対無理だと思って身を引いたので。
お母さんが協力していただけるのなら、こんなに嬉しいことはありません。」
母親は何と言ってよいのか分からず、一瞬会話が途絶えた。
「僕、あれから貴子さんにふさわしい男になるため、これでも随分頑張ったんですよ。
まだ3年目の弱小企業ですが、来年には一部上場するところまできました。」
「知っとるよ。主人も感心しとった。本当にすごいねえ。」
「あの時お借りした100万円を元手に、なりふり構わず頑張って、
いい仲間にも恵まれてラッキーでした。」
「運も才能のうちじゃけん。」
「いいえ、あの時厳しく僕を叱ってくれたおかげです。それまで、未来について
真剣に考えたことがなかった。経営者として成功なさっていたお父さんの言葉が、
甘ちゃんだった僕の目標になったんです。」
「うまいこと言って。」
「本当に。我が家はご存じのとおり片親で、シングルマザーでしたから。親父がいたら、
こんな感じなんだろうなぁって。」
「でも、貴子が電話するかどうかは分からんけぇ。」
「大丈夫。きっと」
電話があったのは、それから半年以上経っていた。
あんなことを言ったが、正直、貴子の気持ちは分からなかったし、自信もなかった。
それでも、あれほどひどい罵声を浴びせていた貴子の母親から電話があるなんて
思いもよらなかったので、嬉しかった。




