第26章 8年前の誕生日の出来事
突然連絡が取れなくなった8年前、悠は貴子の部屋で彼女が帰ってくるのを待っていた。
ブザーが鳴り、鍵を開けると貴子の両親が立っていた。
「興信所で調べたのだ」と言う。「どういうつもりで付き合っているのか?」と詰め寄られた。
「結婚するつもりだ」と答えると、嘲笑われた。
「家柄も学歴も将来性も、何ひとつ貴子とは不釣り合い」と罵られた。
手切れ金の入った袋を無理やりポケットに押し込められ、外に追い出された。
紙袋には100万円入っていた。その頃の悠にとっては大金だった。プライドが傷つけられた。
もう一度戻って言い争いをする勇気はなかった。両親の言うことに間違いはなかった。
悠と貴子とは住む世界が違うと分かっていたはずだった。
束の間の夢。今、現実と向き合って受け止めるしかない。大人しく消えるしかない
階段を降りかけたが、諦めきれなかった。持っていたスケジュール帳に電話番号を書き、
ドアの郵便ポストに投函した。中からそれを拾い上げる音がした。
「もし貴子さんに釣り合う男になったら連絡してもいいですか?」
ドアの外から大声で怒鳴るのが精一杯だった。部屋の中から返事はなかった。
「もし、僕と結婚させてもいいと思うことがあったら、そこに連絡してください。
何年経っても待っているから。それまで、貴子さんにふさわしい男になってみせます。」
もちろん返事はなかった。




