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第17章 お金に苦労した両親の経験から


父も母も365日休みなく働いていた。

母が眠っているところを私は見たことがない。

真夜中に目覚めても母はアイロンをかけたり、昼間仕事でできなかった家事を寝ないでしていた。

父は若い頃は東映の俳優のような美男子だったので、母はお見合いですぐに恋に落ちた。

母も色白で、誰もが気に入る大人しそうな清純で可愛い顔をしていたので、

父も気に入って結婚したのだと聞いている。大きな家だと思って結婚したのはいいが、

3人の姉の嫁入り道具を豪華にしすぎて、家計は火の車。

借金だらけで、東京の大学に通っていた父の学費も払えなくなり、田舎に帰された。

なので結婚当初は食べるのにも困り、母の実家が百姓もしていたので、

そこからお米や卵をもらいながら、日々働き詰めで頑張っていたらしい。

お互い好きで結婚しても、お金がなかったらいらぬ喧嘩ばかりだったと。

だから、私にはお金で苦労はさせたくないのだと。父が作りあげてきた稼業を継ぐのもいいし、

もっとお金持ちと結婚して娘が幸せになってくれるならそれでいいと。

ただ、そのお金目当てで結婚して、娘にお金の苦労をさせる男だけは許さないと。

父も、祖父たちが作った借金を返すために何でもやった。

私が小さい頃はお菓子屋をやっていて、クリスマスにはサンタになって、

アイスクリームでできたデコレーションケーキを自転車で配達していた。

そんな仕事では食べていくのが精一杯。母の実家に食べ物やお金を援助してもらって、

一番情けなかったのは父だった。

しかし、大学で商学部だった父は、高官になった友人から情報を得て貿易に成功し、

一気に大金持ちになった。ビルが建ち、家を何軒も買い、

大きな工場には日本を代表する最新のシステムを取り入れた。

家には国賓が毎年訪れ、いきなりお嬢様になった。私は田園調布のおしゃれなマンションを

買ってもらい、外車を乗り回して優雅な大学生活を送っていた。

しかし、急にお金持ちになっても、中学生までは貧乏暮らしだったので、

貧乏性は拭えない。豪華なマンションも外車も、私には居心地が悪かった。

悠は、多摩川を越えた新丸子の安アパートに住んでいた。

新丸子温泉が気に入っていた私は、よく新丸子の商店街で買い物をしていた。

お嬢様と言われても幼い頃は貧乏だったので、祖母から節約を教え込まれていたからだ。

東京ではあまり車を使うことがないと言って外車を処分し、

住みやすいと新丸子のマンションに引っ越しをした。悠の近くにいたかったからだ。

思えば、悠に合わせて貧乏暮らしを楽しんでいた。バイトも親が知ったら勘当ものだ。

言えばきっと仕送りをしてくれる。そんな裕福な家の子だと、悠には思われたくなかった。

小さなマンションで、ベッドひとつ置けばいっぱいで、

小さなこたつが一年中食卓になった。小さな冷蔵庫が備え付けで、

電気コンロで食事を作った。ユニットバスもトイレと一緒の、

一人で入るのが精一杯の小さなものだった。なのに、だんだん悠の物が増えてきて、

いつの間にか同棲するようになっていた。

とはいえ、昼間はパチンコ屋でアルバイト、夜は大学に行っている悠と会えるのは夜中近くなので、ベッドで眠った後に悠が潜り込んできて、朝気が付くというような感じ。私も大学に行って朝早く出かけるので、アルバイトが休みの時しかデートはできなかった。

半年くらいして、悠が昼間も家にいることが多くなった。夜間の大学にも行かなくなった。

一緒に私の大学に行って、普通の大学生の生活を体験し楽しんでいるようだった。

私も悠と一緒にいるだけで幸せで、あまり深く考えずに愛し合っていた。

いつの間にか私の生活費だけでやるようになって、さすがに経済的に困窮はしたが、

親に頼むわけにはいかなかった。近くのコンビニでアルバイトをし、

どうにかこうにか過ごしていた。アルバイトも初めてだったので、

それなりに頑張って仲間もでき、楽しかった。悠は、私が帰宅するのをまるで

ペットの子犬のように待ちわび喜んでくれた。働くのが嫌いではない私も、

大学とアルバイト、恋人との生活に充実していた。

しかし、悠はだんだん自堕落になっているのがわかった。

暇にしている昼間に、有名大学生のふりをして女学生と遊んでいることも、実は知っていた。

私はそのことを問い詰めもせず、笑顔でいつも悠と恋人気取りで生活をしていた。

もう、とっくに終わっていた恋愛だったのに。

知らないふりをして恋愛ごっこにすがりついていたのは私の方だった。

あの22歳の誕生日に悠が消えなかったら? いつまで、私たちは恋人ごっこをしていたのだろうか。

別れてしばらくしたら、悠への思いも醒め、冷静になれば奈落から救い出されたのだと気が付いた。

あのまま付き合っていたら、私はとことん悠を恨んで、

殺してしまうほどの痴話げんかをしたかもしれない。

出口のない未来が見えないヒモ状態の悠との生活があれ以上続いたら、破滅しかなかったと思う。

常識的な頭では良かったのだと思おうとして、好きでもない相手と寂しさゆえに同棲した。

しかし、悠と渋谷で会ったら、もう駄目だった。好きでもない彼とは、それからすぐに別れた。

彼は納得がいかないと言って泣いていた。本当に私を愛してくれていたのだとわかった。

愛されて結婚した方がいいと思って付き合ってみてわかった。どれだけ条件が良くても、

愛されていても、やっぱり心と体がどんどん離れてしまう。愛せないと、

一緒にいるのがこんなに辛くなるなんて思いもよらなかった。

それから結婚相手を探し、お見合いも何度もしたが、やっぱり駄目だった。

誰と寝ても、誰と付き合っても、私は悠を、死ぬほど愛していたのだと思い知る。

どうして、いけないとわかっていながら求めてしまうのか? 頭では十分わかっていながら、

体が悠を欲している。まるでアダムとイブのように。どんな男に抱かれても開かない心の扉。

私の鍵穴には悠しかぴったりと合わないのだ。

この扉が開かない限り、もう男は愛せないと気が付いた。





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