第12章 理想の結婚も親孝行も無い未来
親のことが、ふと頭をよぎる。
今まで、私は親を泣かせるようなことは一度もしたことがなかった。
結婚までは純潔を守る。当たり前のように信じていた未来。
こんな薄暗いラブホテルで失うはずではなかった。真っ白なウェディングドレスに包まれて、
真っ赤なバージンロードを父親と腕を組んで歩くはずだった。
そして、彼の腕に父から手渡される少女のような私。
皆に祝福され、新婚旅行の豪華なホテルで、きれいな花の香りに包まれながら新婚初夜を迎える。
ロミオとジュリエットのように。鳥の鳴き声で目が覚め、ルームサービスで取った。
モーニングを頂きながら、おはようのキスをする。
それが私の理想。一生この人だけだと契りを結ぶ。人生にたった一人の男性しか知らない。
そんな女性が私の理想。
あの時、両親を裏切った私に罰が下ったのだ。
好きで好きでたまらない彼が私の生涯の伴侶になるとは思えなかった。
両親に会わせられればいい。無名の大学にすらほとんど行ってない貧乏学生。
家も豊かでなく夜間の大学を選び、昼はパチンコ屋で働いている。絶対に許してくれない。
でも、出逢った時から魅かれていた。美しい澄んだ眼差し、
鼻筋がとおっていて、パッと見はクオーターかな?と思うくらい男前だった。
一緒にいると絵になると言って注目された。遊びに行っても、何でも器用で上手かった。
テニスをしても、ゴルフをしても、ディスコやカラオケに行ってもプロのように決まっていた。
どこに行っても注目を浴び、一緒にいて自慢だった。
こんな男前の心を射止めるなんて、夢のようだ。彼といると、薄暗い場末のラブホテルでも、
さわやかな風が吹いてくるような清々しい気持ちになった。
気持ちよさそうに寝息をかいて無防備なかわいい顔をして眠っている。
いつかは別れる人だと思うと、余計に一緒に居られる時間が愛おしい。
そっと頬に口づけをする。目を閉じたまま私を抱き寄せて腕枕をしてくれる。
若草のような香しい匂いがする。彼の匂いだ。
何かコロンのようなものをいつもつけている。嫌な臭いではない。
むしろ彼のトレードマークで、近くに来るだけで彼の存在に気付く。




