猫である
朝起きたら枕元に猫がいた。
ちょっと太っている。
僕がジッと見てると、細目で見つめ返しニャーと一声だけ鳴いた。
起きてご飯の用意をしてると当然のように寄って来て、僕の脚に身体を擦り付けて、野太い声でニャーニャーと鳴いて来る。
人類滅亡したのに関係無く太っている。
態度が図太くて顔も可愛くない。
まるで油ギッシュなオッサンがそのまま猫になったかのような猫です。
昨今、その体型を維持するには大変なのではと思う。
しかも、…猫なのに可愛くない。
ニャー!ニャー!
(飯だ!腹減った。遅いぞ。早く出せ!)
た、多分、これってご飯を催促されてるんだよね…?
食べさせてもらう側なのに当然の如く強く要求して来る。
ご飯請求権を主張している…?
そんな権利などは無い。…無いはずだ。
だいたい自己の欲望に何でもかんでも権を付ければ、正当性が得られるというのか?
そんな不合理な理屈、権利などは世界に存在しない。
そう思うのは勝手だけど、いったい誰に対しての主張で誰が赤の他人の願いをかなえるというのか?
人類は滅亡したから、その様な理不尽も一緒に消えた。
もはや権利も義務も無い。
消滅したのだ。
もはや、どうでも良い事。
誰も居ないのだから、誰かが主張して来るはずも無いし、僕が阿呆にも天に向かい主張する事も無い。
時間の無駄だから。
自分の事を自分でするのは、基本で当たり前だから。
なのに、僕の目の前に、悠長にも最低限度の文化的生活を主張して来る一匹がいる。
…
何たる傲慢、まさに猫です。
最大のネックは全く可愛くない事です。
きっと生きるのに苦労してたと思うけど、それを感じさせないふてぶてしさです。
声さえも酒やけで枯れた親父のような掠れた重低音です。
脅すようにナーナー鳴くので、仕方なく缶詰を切ってお皿に出してあげると、ガッツクようにニャウニャウ食べている。
美味い、美味いと言ってるように聞こえる。
それを見ながらガスバーナーに火をつけ、鍋に水を注ぎ多少の食材を入れてスープを作る。
街の中の路上でキャンプ。
人類が滅亡してなければありえない…轢かれちゃうからね。
でも一番開けて広いのが路上なのです。
人類は滅亡したけど、動物は生きてました。
今は…それで良しとする。
他の生き物の事をアレコレ思う事。
煩わしかったはずなのに今は碇のように僕の心を鎮めてくれる。
昨日のご飯を入れ、雑炊にしていただく。
…
美味しゅうございました。
食べ終えた猫が顔を洗っている。
満足したようだ。
ご飯を食べた後の幸せ感を漂わせている。
見てるとホッとした。
「おいで。」と声を掛けると、「何だお前舐めんなよ。」ような顔つきを向け、…寄ってきて僕の前まで来ると、ゴロンと転がりお腹を見せた。
ニャー
(ほらほら、触って良いぜ。)
全然野性味が無い、…流石猫です。
一宿一飯のお礼かもしれない。
取り敢えず撫でてあげる。
気持ち良さそうですね。
抱き上げて、頭や顎を撫でてあげる。
君、少し重いよ。
多分ダイエットするべきです。
今なら、…緊張の糸がほぐれた今なら、本当の事実を思い出すことが出来る気がする。
僕が如何に否定しようと現実は変わらない。
…変わらないのだ。
僕は猫の頬をグニグニした。
僕のなすがままだけど、流石に髭を引っ張られるのは嫌だったようで、前足でヤメロといわれた。
次にダブついている顎下を撫でてやるとゴロゴロと喉を鳴らした。
うん…太っているけど猫に間違いないね。
自然と口元の口角が上がるのが分かる。
さあ、あの日起こった事を思い出そう。
もうあの日から、…一ヶ月近く経っている。
大丈夫だ。
今日の空は、蒼天で陽の光りが地上に降り注いでいる。
でも、時折り吹く風は冷たい。
目を背けたままでは、前へは進むことは出来ない。




