第4話 おっさん冒険者、ぶち切れる
「だ、誰だキサマは! どうやってここに入って来た⁉ 警備兵は何をしている⁉」
見知らぬ男が、部屋に入ってきたことでブルーノは大声を上げる。
「オレはカルマ・ヴァースという王都の冒険者ですよ。ちゃんと正面玄関から入ってきましたけど、警備兵は……まあ、ちょっと黙ってもらいました」
ボサボサ頭を掻きながら苦笑いをするおっさん――カルマは悪気もなくそんなセリフを吐く。
「黙ってもらったって――」
この屋敷の主人、ブルーノは目を丸くする。
「冒険者? それじゃ、昼間邪魔をした冒険者というのは――」
「ああ……それ、オレです」
簡単に白状する冒険者の男に、領主と商人は呆れた表情を見せる。
「ぬけぬけと……まあいい。それなら好都合だ。キサマはこともあろうか領主の屋敷に不法侵入した。その罪で、その場で処刑されても文句はあるまい」
「まあ……そうなりますね」
頬を人差し指でポリポリと掻きながら、カルマは困った表情を見せる。
その時、カルマが入ってきたところと別の扉が開く。
「ご主人、何の騒ぎですか?」
いかにもガラの悪そうな男たちがぞろぞろ入って来た。
(アゲハから用心棒がいるとは聞いていたが……別の部屋にいたか……まあ、仕方ない)
「オマエら遅いぞ! さっさとこの侵入者を捕まえろ!」
すると、「へへへ――」と気持ちの悪い笑いをこぼしながら、用心棒たちがカルマを囲む。
「こんな、くたびれたおっさん、俺様ひとりでも大丈夫ですぜ」
モヒカン頭で、ちょっとイカレた表情の若者が、ナイフを舐めながらカルマに近づく。
(くたびれた? ああ……猫背の演技がクセになってしまったか……)
「しかし、殺すのはやっぱり若い女がいいなあ」
「――いままでも人を殺してきたような言い方だが?」
「ああ、そうだよ。昨日は女のガキを犯して殺した」
「……なるほど、それで安心したよ」
「はあ? 何が安心だって?」
次の瞬間、モヒカン頭の男が吹っ飛ぶ。そのまま、壁に立てかけたブルーノの肖像画らしき絵に激しくぶつかると、真っ赤な血を激しく散らしながら動かなくなった。まるで潰れたトマトのように――
「なっ!」
あまりにも突然のことで、誰も動けない。
「この部屋の調度品に品がなかったら、ちょっと手を加えてみた。気に入ってくれたかな?」
「ああ! 儂の絵がぁ! 百ゴールドも払って描かせたのに!」
この場に及んでも、金勘定しかしないブルーノ。「何をしている! 早く殺せ!」と叫ぶ。
「なんだ? 気に入ってくれなかったか。残念」
「このやろう! ふざけるな!」
別の用心棒が剣を振り回す。それをカルマの大きな身体がひょいひょいと小気味良く躱す。
「ちょこまかと動きやがって!」
「そうか? それじゃ、止まってやるよ」
ピタッと止まるカルマに剣が振り下ろされる。
「死ねぇ!」
カルマがその剣を親指と人差し指だけで掴む。すると、剣はビクともしなくなる。
「な、なんだ? どうなっている?」
「おい、若いの。そんな振り方では戦場で人は殺せんぞ」
そのまま親指と人差し指だけで剣を引っ張る。すると用心棒が「うわぁぁぁぁっ!」と悲鳴を上げながら、吹っ飛んだ!
「剣とはこういうふうに使うんだよ!」
奪った剣を握り直すと、一瞬で用心棒が立つ場所まで移動する。
「……へ?」
次の瞬間、用心棒三人の頭が飛んだ。
「ははは! やっと調子が出てきたぜ!」
「ひいっ!」
「ば、バケモノ!」
生き残った用心棒のうち、二人が部屋から逃げ出す。
「こ、こら! 逃げるな! 儂を守れ!」
悲鳴に近い声でブルーノが叫ぶのだが、立ち止まる様子はない。そのまま姿を消した。
残った用心棒は一人、その男も後ずさりするのだが、カルマがその男の首元に剣を向けた。
「おっと、それ以上動くと喉に突き刺さるぞ」
「た、たすけてくれ……」
「……そうやって命乞いする女子供を、オマエは何人殺してきた?」
「お、俺は命令に従ってやっただけだ」
「なるほど、命令なら人を殺すんだな」
「お、お願いだ。殺さないでくれ」
しかし、カルマは無情にも剣を振り上げ、男に振り下ろそうとする。その時――
「動くな! こ、これを見ろ!」
アゴラが倒れていた少女を抱きかかえ、首元にナイフを当てていた。
それを見て、カルマは動きを止める。
「そ、そのまま剣を放せ」
――カラン。
金属音が部屋に響く。
「フフフ、バカなやつだ。見ず知らずの小娘なんか見捨てればいいのに。おい、そいつを殺せ」
ブルーノが命令すると、それまで命乞いをしていた用心棒の男が、剣を拾い上げる。
「さっきは舐めたマネしてくれたな? ああ、そうだよ。オレはいままで何人も殺した。命令されたから? 違うな。人を殺すのが好きだからだよ」
そう言って、剣を構える。
「それじゃ、あばよ!」
勢いよく剣を振り抜くと、カルマの服がばっさりと斬れた。
「ま、まさか……」
カルマを斬った男がブルブルと震えている。
「おい、どうした? 冒険者を斬ったのだろ?」
「斬った――たしかに、思いっきり……なのに、コイツの皮膚にも傷ひとつついてない……」
「な、何をバカなことを――」
「そんななまぐらじゃあ、オレの身体は斬れないぜ」
斬られたはずのカルマが笑っている。まるで得体の知れない物と戦っている――そんな恐怖に駆られる。
「そのタトゥー……ま、まさかキサマ……」
「おっと、これを見られてしまったら、生かしておくわけにはいかない」
「ま、待て――やめろ」
次の瞬間、男の首が飛んだ。カルマが拳で殴った――ただそれだけ……
カルマは破れた服を脱ぎ捨てると、男の屍から剣を奪い取る。
「鳳凰の刺青⁉」
炎の中から生まれる鳳凰を見て、ブルーノとアゴラは思わず、声にしてしまう……
「無双王――?」
すると、カルマは背を向けたまま、こう言い切った。
「オマエらの悪事、お天道様が許しても、このタトゥーが許さねえ!」




