第5話 おっさん冒険者の旅は続く
「そ、そんな……なぜ、こんなところに無双王が?」
退位後は王都郊外の離宮に籠っていたのでは――とアゴラは声にする。
カルマは笑みを見せると――
「さっきはオマエさんたち、『無双王のおかげで儲かった』なんて言ってくれたな?」
剣を握ったカルマがブルーノとアゴラに近づく。
「ち、近づくな! この娘がどうなってもいいのか!」
ブルーノがそう言うのだが――
「おい、ちゃんと見な。どこにその娘がいるんだ?」
「ん? あれ? 娘がいない⁉」
アゴラは慌てる。確かに自分が拘束して、ナイフを首に当てていたはずの少女が、気がつけば消えていたのだ!
「娘さんとはあの子のことか?」
「――えっ?」
窓際に、黒装束の娘に抱きかかえられている少女。確かに、ブルーノに蹴られ、アゴラに人質にされていた少女だ。
「い、いつの間に!」
いったい、何が起きている?
「アゲハ、ありがとう。それで、他に囚われていた女、子供は?」
「もう、逃がしました。そろそろ家族のところへ戻ったはずです」
「そうか……」
ホッとした顔をするカルマ。
その時、ドンッという音と同時に何か黒焦げなものがふたつ、ブルーノとアゴラの前に降ってくる。それが人間の焼死体と気づき、「ひいっ!」という短い声を上げた。
「カルマよ、逃げた二人は妾が片づけておいたぞ。まったく、おぬしは脇が甘い」
「おおっ! ニーニャ、助かった! さて……」
カルマはブルーノとアゴラの前に立つ。
「オマエたち、人身売買をしていたようだが、元締めは誰だ?」
「し、知らん……」
そう、アゴラが言う。
「はあ? この場に及んでもしらを通せるとでも? なんなら自白魔法で吐かせようか?」
「本当なんだ! 信じてくれ――いや、信じてください!」
ブルーノが大きな身体を卑屈に折り曲げ、そう訴えるので……
「カルマ、こやつら、嘘をついているようには見えんぞ」
自白魔法を使うまでもない――そうニーニャが言うと、「そうか……」とだけカルマは言葉にする。
「無双王! いや、ヘルマイネ先代国王! 我々は法に従って裁判を受ける権利がある! 大陸法を作った陛下なら、法に従っていただけるのですよね?」
アゴラが言うと、ブルーノも「そ、そうだ――いや、そうです。我々は投降します。だから、裁判を受けさせてください」と話を合わせる。
「なるほど……たしかに大陸法にはそう書かれている」
カルマ――いや、無双王がそう答えると、二人は安堵の表情を見せる。
「……だがな」
「……へ?」
次の瞬間、二人の首が飛んだ。
「大陸法を作ったのはオレだが、法律を守るのは苦手なんだよ」
カルマは二人を斬った剣を投げ捨てると、アゲハを呼ぶ。
「さっきの娘は?」
「陛下がタトゥーを見せる前に気を失っていました。後ほど家族のもとへ連れていきます」
「そうか、それでエリーゼという娘は――」
「……少女の遺体を二つ発見しました。そのひとつが先ほどの親子から聞いていた外見と同じでした」
申し訳なさそうにアゲハが言うと、「……わかった。後ほど遺体をあの親子のもとへ届けてくれ」と伝える。
「御意」
「ニーニャ、それでもうひとつ仕事を頼めるか? 伝書魔法でこのことを、王都のラング国務尚書へ伝えてくれ。ヤツなら上手く処理してくれるはずだ」
「ったく、人使いの荒い男だの。おぬしは」
「悪いニーニャ。あとで甘いものをたくさん買ってやるから」
「そうやって、すぐ食べ物でごまかそうとする」
「いやか?」
「――この辺りはメイプルシロップかけのパンケーキというのが名物らしいぞ」
「はいはい、わかりました」
*
その日のうちに伝書魔法による情報が王都に伝わると、次の日の夕方には、早馬を飛ばしてやって来た騎士団がブラバドに入る。
「私は騎士団長のエドワース・ドワイヤだ。ヴェルフェルム国王陛下の勅旨により、ここブラバド領は暫定的に王家直轄とする! それにともない、ブルーノ子爵の領主権をはく奪。併せてブルーノ子爵家の断絶、資産の没収。そして、アゴラ商会については、衛兵による取り調べがあるまで、すべての業務停止を命じる!」
純白の騎士団服を着たドワイヤ団長は、そう読み上げると、さっさと書状を部下に渡して、人探しを始めた。
「ここに、カルマという大柄の冒険者が来ていたはずだ! 誰か知らないか!」
すると、一組の母娘が前に出て――
「あの方たちなら、今朝早く、ここを出て行きました」と伝えた。
「なんだと? どこへ向かったか聞いてないか?」
「さあ……」
「くそ……また取り逃がした……」
悔しそうな顔を、ドワイヤ騎士団長は見せるのだった。
*
その頃、カルマたち三人は街道を西へ向かっていた。
「カルマ様、もう二度と敵の中へ一人で向かわないでくださいね」
昨日は肝が冷えたと和服姿のアゲハが無表情のままお願いする。
「ははは……でも、アゲハが来てくれて助かった。さすが、オレの懐刀だ」
そう言って、彼女の頭をなでなですると、アゲハの顔が緩む。
「カルマ様、もっとよしよししてください」
「ほら、よしよし」
すると、機嫌が悪くなるニーニャ――
「ふん、あのまま、死んでしまえばよかったのじゃ」とイヤミを言う。
「ニーニャもありがとうな。オレはすばらしい仲間を持って幸せだ」
そう伝えると、ニーニャは恥ずかしそうにうつむいてしまう。
「ま、またそんなことを言いおって……それより、甘味の約束は忘れるでないぞ」
「ああ、忘れてないぞ。次の町で振る舞ってやる」
「ところでカルマ様、次の町までどのくらいなのですか?」
「さあ……明るいうちに到着できればいいな」
((こやつ、本当に無計画だな))
こうして、冴えないおっさん冒険者、ロリババ魔女、ヤンデレくのいちという、デタラメなパーティの世直し旅は続くのである。
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