第3話 おっさん冒険者、領主の悪事を知る
ブラバド領主の屋敷――
高価な白磁器や有名画家の絵画が並ぶ豪華な居間のソファーに二人の男が対面して座っていた。
一人は派手な刺繍があるジャケットを纏った太めの男。白いシャツがはち切れんばかりだ。
もう一人は、カンドゥーラという裾が足首まである白シャツを着た口ひげの男。
容姿からして、太めの男が貴族、つまりこの屋敷の主人。そして、口ひげの男は商人だろう。
「王都から来た冒険者だと? アゴラ、なぜこんな場所に冒険者がいる?」
太った男がそう言うと、アゴラと呼ばれた商人は――
「わかりません。ですが、まずいことに子供を連れ去ろうとした場面に出くわしてしまったようです」
「ふん、それがどうした?」
太った貴族はグラスの赤ワインを飲みながら、機嫌が悪そうに言い捨てた。
「その冒険者が王都に帰り、ここでの出来事を王都の役人なり、冒険者ギルドなりに報告したら、今までのように堂々と町の子供を連れ去ることができなくなります」
場合によっては衛兵がこの町に押し寄せて、調査されるかもしれない……そう、アゴラは伝える。
「うーむ……それは困るな。アゴラ、それでこの儂にその冒険者とやらの口を塞いでくれ――そう頼みにきたわけだな?」
「さすが、ブルーノ子爵。ご察しの通りです」
ニタッとするアゴラに、ブルーノ――この町の領主は「ふん」と鼻を鳴らす。
「そういうことなら、わかったぞ。明日にでもその冒険者を捕らえて、処刑しておく。なあに、罪状などどうにでもなる。なにせ、儂はここの領主だからな」
そう言って、グラスを口に持って行くと、中が空なことに気づく。
「おい! 酒が入ってないぞ!」
ブルーノが声を荒げると、奥から少女がワインの瓶を持って現れる。年齢は十代前半――なのに、下着姿である。
表情はうつろで、何やら怯えている。
「何をしている! さっさと注げ」
少女がグラスにワインを注ぐのだが、手が震えてグラスを倒してしまう。
「うわっ! 儂の服が汚れてしまったではないか!」
「お、お許しを――」
少女は慌てて土下座をするが、ブルーノの怒りは収まらない。彼女の幼い顔を足蹴りにすると、少女は床に横たわる。
「この服は三百ゴールドもするんだぞ! シミが残ったらどうするのだ!」
「お許しを――お許しを」
再びブルーノが少女を踏みつけようとしたところ、アゴラが口を挟む。
「子爵、やめてください。それはわが領地の商品ですよ。傷物になったら商品価値が下がってしまいます」
「うるさい! コイツは儂の領地に住む民だ。何をしようが儂の勝手だろう!」
「そう言って、すでに二人もそうやって死なせてしまったのですよ。昨日だって――」
「あれは、この儂を『デブ』と言ったからだ!」
そうブルーノは声を荒らげた。
「で、ですが、そのエリーゼという娘はそれこそ三百ゴールド以上の値打ちがあったんですよ」
お金の話が出るとブルーノの足が止まる。
「さ、三百ゴールド⁉ まあ、たしかにあの小娘、可愛い顔はしていたが――」
それは失敗したと、後悔したような表情を見せた。
「それにしても、奴隷程度でそんな大金が手に入るとは……」
「それもこれも、あの『無双王』が奴隷制を廃止し、人身売買を禁止したおかげです」
それにより、闇で取引される奴隷の値段は跳ね上がった――そうアゴラは言う。
「なるほど、無双王のおかげで、奴隷が貴重となり、儂たちは容易く儲けることができる――ということだな」
「左様で。本当に無双王、様々です」
「そうだな。これは王都へ足を向けて寝られないな」
「ハハハ――」と高笑いする二人。そこに別の男が部屋に入って来た。
「そうやって、守るべき領民をオマエらは食い物にしてきた――そういうことか?」
「――⁉」




