13 戦闘
「いまのはセアルの声……」ヴェネフィカがつぶやく。
なにか小さな群れに襲われて困惑していたヴェネフィカだったが、セアルの切迫した声をきいてなにかを察した。
「クレメンタスさん、出口まで走ってください」
突然のことで要領を得ていないクレメンタスであったが、ヴェネフィカの指示に従うことにした。が、ひとりではなく、盲目のヴェネフィカを抱きかかえて走った。
「ク、クレメンタスさん!」
出口のすぐ手前でクレメンタスは走るのをやめた。
どうしたのだろう、出口はちかいはずだが──とヴェネフィカは訝しんだが、止まった理由はすぐにわかった。
「キイィィィィィッ!」
甲高い獣の啼き声だ。
「野猿だ」クレメンタスが言った。「出口を塞がれている」
凶暴な野猿の群れが洞窟の出口に陣取っていた。強行突破はむずかしそうだ。ならば──
「クレメンタスさん。詠唱にすこし時間がかかります。時間を稼いでください」
「戦うのですね」
クレメンタスはヴェネフィカを下ろすと、メイスを構えた。
セアルとロッカが後ろからやってきたが、野猿の群れと呪文詠唱をしているヴェネフィカを見て、一瞬で状況を把握した。
「挟まれちまったか……しかたない。やるぞ、ロッカ。アタシたちは百足を狩る」
そう言うと、ふたりは洞窟の奥へともどっていった。
祝福をうけた木盾で野猿を跳ねのけ、ときおり鎚鉾で野猿の頭蓋をカチ割るクレメンタスだったが、なにせ次から次へと野猿がわいてくるので息つく隙もない。
も、もう無理……限界──クレメンタスがそう思ったとき、ヴェネフィカの声がきこえた。
「お待たせしました、クレメンタスさん」
背すじに悪寒が走った。いったいなにが起きた? 野猿たちも異変に感づいたようだ。うごきを止め、周囲を警戒している。
あらわれたのは、死霊──しかも群れだ。死霊の群れが野猿たちに襲いかかる。
「キャアァッ!」「キィィィッ!」
野猿どもの悲鳴でクレメンタスの耳が潰れそうだった。
野猿一匹に死霊が複数群がっている。強引に身体のなかへ入りこもうとしている。野猿の身体をめぐって競いあっているのだ。野猿は苦痛に顔を歪め、皮膚が破れ血が流れるほど身体を掻き毟った。
クレメンタスは見たくないのに視線をそらすことができない。恐怖が閾値を超えると、人は凝視すること以外できなくなるらしい。
ひとつの野猿の身体に複数の死霊が憑依し、苦悶のなか、野猿たちは一匹残らず発狂し、絶命した。
こんな死に方だけはしたくない──クレメンタスは盲目の魔女を畏怖した。
ガォッチン!
鉄球と鉄球がぶつかる音が響く。セアルは両手に装着した鉄球を胸のまえで合わせた。洞窟内の狭い空間ではボクシングスタイルのほうが適している、という判断だ。
「ロッカ」セアルが言った。「巨大百足の外骨格に刃は通らない。火をつかえ。アタシが注意を引きつける」
巨大百足が蛇行しながら接近してくる。口の両側にある牙のような顎をカチカチと鳴らし、セアルを威嚇した。
セアルが巨大百足の前に立ちはだかると、百足は身体の前半分をもち上げて、セアルを押し潰そうとのしかかってきた。が、潰されるより速く、外骨格が薄い腹部にセアルの拳が二発打ちこまれた。
百足のうごきが止まる。ダメージは通っている証拠だ。
ロッカの掌から呪術の炎がはなたれた。
火は術者とともにある。術者が大切にあつかえば、火は相応の見返りをあたえてくれる。ロッカの炎は、火力も持続力も、凄まじいほど強くなっていた。
炎が百足の全身をつつみこむ。自分の肉が焼ける苦痛に百足は暴れまわった。
「いいぞ、ロッカ! 次で決めるぞ!」
発狂した百足が出鱈目に噛みつく。牙が空を切る。それを華麗なフットワークで回避するセアルは攻撃の隙をさぐっていた。
──いまだ!
鉄球のアッパーカットが百足の顎を打ち抜くと牙が砕けた。
追い打ちの発火は、現段階でのロッカの最高火力だった。
百足は消し炭と化した。




