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体育祭の練習が本格的に始まった。
体操服に着替えグラウンドに集まっていると、先生の笛の音と共に「集合ー!」と呼びかけられた。
「よーし、早速始めるぞー。じゃあ、号令。」
日直の後に続いて「よろしくお願いします。」と挨拶をしながら礼をして着席する。授業の説明を聞いた後、軽く準備運動を済ませてから競技のチームに分かれる事になった。
春影を探すために視線を彷徨わせていると。
「月冴君っ。」
髪を後ろで一括りにした春影が、ポニーテールを揺らしながら近づいてくるところだった。その見慣れない姿に、無意識に視線を背けながら春影と並んで歩いていると、後ろから何やら聞こえてきた。
「最悪だ最悪だ最悪だ…」
「頑張ろうね、秋人!」
頭を抱えながらぼやく末枯に、若夏が笑顔で肩に手を置いた。何故だろう。あんなに輝いている若夏の笑顔が黒く見えるのは…春影と顔を見合わせて苦笑した。お互い同じようなことを感じたのだろう。
「二人三脚の方は、ペアのどっちかでいいから足を結ぶ紐を取りに来てくれ。」
「あ、じゃあ僕が行ってくるね。」
「ありがとうございます。」
「月冴君、私たちのも一緒にお願い!」
手を挙げて了承の返事をしながら先生のところに足速に向かった。段ボール箱の中から紐を二本取り、みんなの所に戻る。一本は若夏に渡し、もう一本を手に持った。
「みんな集まったか。まずは、足を結んで慣れるところから始めよう。怪我には気をつけてな。」
「始めよっか。」
「はい。」
春影が緊張した面持ちで返事を返した。平静を装っているが、かく言う冬希も心臓がバクバクである。
結ぶよ、と一声かけてからゆっくりと片足を近づける。やり慣れているはずのリボン結びだが、紐を結ぶ手が震え、時間がかかってしまった。暫くして、漸く結び終えた冬希は、安堵の息を吐きながら立ち上がった。
片足をくっ付けているため必然ではあるものの、春影との距離がぐっと縮まりそわそわしてしまう。
「よし、外れないか確認するためにもちょっと歩いてみよう。」
「は、はい。因みに手は何処にやれば…」
握った拳を二つ所在なさげに胸の前に置き、ぎゅっと目を瞑り困った様子だ。
周りの様子を見てみると、大体のペアはお互いの肩に手を置いているようだ。確かに、そうでもしないとバランスが取りにくく危ないのかもしれない。
「肩に手を置くみたい。ごめん、触ってもいい?」
無言でこくこくと頷く事を確認した後、心を落ち着かせながらそっと肩に触れた。春影も遠慮がちに冬希の背中に手を周し、きゅっと服を掴まれた。
緊張からか、慣れない体勢からか、ずっと胸の内が騒がしく、春影に聞こえていないか心配になるほどである。
「じゃあ、外側の足から行くよ。」
せーの、と一歩踏み出す。いちにいちに、と声を合わせながらゆっくり歩き、少しずつ慣れくると、段々と普段と同じくらいのスピードで進めるようになってきた。歩くという、普段は意識しない事を意識して行うため、ゲシュタルト崩壊というのかよく分からなくなってしまいそうである。
各々で練習をしていると先生から声がかかり、試しに二手に分かれてチーム対抗でリレーをやってみることになった。
「今日初めてやったんだから、無理せずゆっくり行けよ。」
先生から注意が飛び、直ぐに最初のペアがスタートした。ゆっくり行こう、とお互い頷き合い、声を掛けながら無事バトンを繋ぎ終えた。
「大変ですけど、意外と出来る気がしてきました。」
「思ったより楽しいね。」
順番を終えて後方に座りながら、春影が笑顔を見せた。そのまま視線を移し、あっと前方を指差した。
「次、若夏さんたちではありませんか?」
「本当だ。」
若夏と末枯は、向こう側からこちらに歩いてゴールするため冬希から距離があり、言われて気がついた。春影は目が良いんだな、と変なところに感心していると、丁度若夏・末枯ペアがバトンを受け取りスタートするところだった。順調に進んでいるように見えたのだが…
「何というか、躓いていますね。」
「うん…」
何というか、息が合っていないというか。少し進んではバランスを崩し、また少し進んではバランスを崩し、を繰り返しているように見える。
自他共に認める運動が得意な若夏と、運動が大の苦手な末枯のペアであるため、最初はこんなものなのかもしれない。今後の成長に期待といったところだろう。
そうこうしている内に時間が経ち、残りは自由時間となった。
二人でどうしようかと顔を見合わせていると、春影の後ろで数人の男子生徒が戯れ始めた。
「春影さん、後ろ気をつけ」
「わっ…」
危ないと思い声を掛けたタイミングで、男子生徒の一人が春影にドンと当たり、バランスを崩した。咄嗟に春影を庇い後ろに倒れながら、急いで片手を地面に着く。衝撃と共に手のひらに痛みを感じる。
悪いと謝る生徒に大丈夫と応えていると、腕の中にいる春影がバッと顔を起こした。
「春影さんは怪我ない?痛いところとか。」
「私は大丈夫です。月冴君は大丈夫ですか⁉︎」
「うん、僕も大丈夫だよ。」
片手を地面から離し、土を落とそうと手を翻すと。
「月冴君…ち、血が…!」




