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「6月に体育祭が催される。今年やる種目の一覧を黒板に貼っておくから、各自で確認するように。」


 新学期が始まってからあっという間に一ヶ月が経ち、葉桜に変わる頃。

 朝のホームルームで、今年度初の大きな行事である体育祭の説明が行われた。


 ホームルームが終わると、教室は体育祭の話題で持ちきりとなり、種目の一覧表を我先に見ようと、黒板に大勢のクラスメイトが押し掛けている。

 この学校に来て驚いたことは、体育祭が六月に開催されることだ。冬希が前に通っていた高校では秋にやっていたためだ。梅雨と被るため大丈夫なのかと思ってしまうが、過去二年間は練習日に降ることはあっても、体育祭本番はいずれも晴れたらしい。これが体育祭の陽気パワー、と訳の分からないことをドヤ顔で言った若夏が、末枯に小突かれていた。


「何の競技をやるんだろう。去年は何やった?」

「去年は、玉入れと障害物競走をやったか。あとリレーも。」

「はいはーい!私は選抜リレーにも出たよ!」

「若夏さんは足がすごく速いんですよ。」


 この学校は一学年につき四組存在し、赤・白・青・黄に分かれて勝敗を競う。冬希は一組に所属しているため、赤組として参加することになる。

 黒板の前の人だかりが減ってきた所で若夏がちょっくら見てくる、と駆けていった。


「因みに、選抜リレーって何?」

「クラス毎に選抜された人たちで行うリレーです。最初の体育の授業で、体力測定をやったでしょう?」

「ああ、あの結果で選ばれるんだ。」

「そうだ。あいつは毎年常連だ。」


 気乗りしない表情で、若夏を顎でさす。いつもテンションが低い末枯だが、今日はいつにも増してどんよりしている。


「何で暑い中、わざわざグラウンドで運動をしなきゃならないんだ。月冴もそう思わないか?」

「え、うん。どうかな…」


 冬希は昔から、体育祭は結構楽しみにしている行事である。しかし、運動が得意なわけではないため手放しで喜ぶこともできず、かといって忌み嫌うわけでもなく、曖昧な苦笑で返した。


「私は見てる分には楽しめるのですが、運動が苦手なのでいつもチームの足を引っ張ってしまいます。」

「分かるぞ、春影。精一杯を尽くしているのに誰にも及ばない惨めさ。特にリレーの、自分と同じ番で走る人が軒並み速い人で被った瞬間。あの時の絶望といったらない。更に自分のチームが最初にバトンを渡してきようものなら…考えただけでも恐ろしい…」


 否。いつにも増して饒舌であった。

 青い顔で体を震わせながら、体育祭の恐怖を力説する末枯に、春影も高速で頷いて共鳴している。そこに、真反対の空気を纏った若夏が戻ってきた。


「おーい、やる競技が分かったよー!」

「何をやるんだ。」

「っ…」


 いつになく真剣な面持ちの末枯、固唾を呑んで若夏を見つめる春影の圧に押され、驚き戸惑ったように後ずさる。そして、気を取り直してエアーでドラムを叩いた。


「あ。う、うん…今年やる競技は…」

「今年は綱引きと二人三脚でリレーするって!あと、自主選択のもあるらしいよ!」

「ええ、そうなんだ!」「ペア誰になるんだろうね!」

「…」


 気まずい沈黙が流れた。

 一同は、折悪く後ろではしゃぐ女子グループの会話によって知ってしまった。思わぬところからの刺客に、若夏も固まってしまっている。

 これは、何か言ったほうが良いのか…?だが何と言う?

 「何の競技なんだろう。気になるなあ。」わざとらし過ぎる。

 「綱引きと二人三脚やるんだ。楽しそうだね。」これでは、盛り上げようとしてくれた若夏をまるっと無視することにならないだろうか。しかし何も言わないのも


「綱引きと二人三脚か。まだマシだな。後は、自主選択の種目が何かだ…」

「末枯…」


 冬希が悩んだのは一体何だったのだろうか。唇を噛み俯いていた若夏は、バッと顔を上げた。


「今年の競技は、綱引きと二人三脚です!」


 まさかのテイク2である。しかし、冬希達は既に知ってしまったため再び気まずい空気が流れた。


「へ、へぇ。楽しそうですね!」

「う、うん!楽しそうだね!」


 若草色の目が遠くを見ている。

 冬希と春影の必死なリアクションも逆効果だったかもしれない。しかし、流石は若夏である。直ぐに切り替え、瞳を光らせた。


「一番気になるのが誰と組むか、だよね。」

「どうやって決めるんだろう。」

「こう言う時のための体力測定だろ。足の速さが同じような人で組むに決まってる。」

「分からないよ?もしかしたら私と秋人で組むかもしれないし。」


 若夏が口に手を当て、にやにやしながら末枯をつつく。末枯はその手を払いながら、自分に言い聞かせるように呟いた。


「そんな訳がない。俺たちの間にどれぐらいの差があると思ってるんだ。それでなくともお前とだけは絶対に嫌だ。」

「えー、そこまで言う?でも、多分足の速さで決まるだろうね。」

「そうであって欲しいです。迷惑かけないようにしないと。」

「そんなに心配しなくても大丈夫よ、咲桜。何か言われたら私がそいつをぶっ飛ばしてあげるから!」


 不安気な様子の春影を、若夏が拳を振り上げて元気づける。体育祭の話題で盛り上がっていると、ふと時計が目に入った。


「今日の一限目って体育だよね。着替えなくて良いんだっけ。」

「そうだよ。今日は教室で待機!」


 周りの生徒も時間に気づき、席に着き始めた。

 体育祭についての詳細を授業で知らせるとの連絡があり、制服のままで良いらしい。授業の準備をしながら、胸の高鳴りを抑えきれない冬希であった。



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