表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

5

「おはよう。」

「おはよー。うわ、どうしたの?」


 雨に濡れた翌日。教室に入ると、既に若夏と末枯(うらがれ)は来ており何かを話しているところだった。冬希が挨拶をすると二人は冬希の姿と声に驚いた様子で、目を丸くしながら振り返った。

 昨日、帰宅した後すぐお風呂に入り、暖かくして風邪を引かぬように気をつけたはずだった。冬希自身、しんどい思いをすることは可能な限り避けたいのだが、何より冬希が体調を崩したことによって春影が責任を感じてしまわないか憂いたからだ。

 だが、その冬希の頑張りも虚しく、体調を崩してしまった。熱がなかったため学校には来たのだが、咳やだるさを感じる為マスクをしている。そして、声もがさがさである。


「昨日、傘を持って出るのを忘れてたんだ。一応気をつけはしたんだけどね。」

「そうなんだ。声やばいけど大丈夫?熱とか。」

「熱がないから学校に来てるんだろ。」

「うん、熱はないから大丈夫だよ。ありがとう。」


 末枯に突っ込まれて突っかかる若夏に苦笑しながら鞄を整理し、隣の空いている席を見つめる。


「今日は晴れたね。昨日の雨はすごかったけど。」


 若夏の言葉に、窓の向こうに視線を移した。今日は雲一つない晴天である。

 春影さんは大丈夫だったかな…

 校庭を眺めながら思いふけっていると、教室にチャイムが鳴り響いた。時計を確認すると、朝のホームルームが始まる時刻を知らせている。隣の席は未だ空席であった。


「ホームルームを始めるぞ。静かにしろ。」


 担任がドアを開けて入ってくる。連絡事項を伝えられ淡々と進行していく中、冬希の意識は別のところにあった。

 ホームルームが終わり、教室にざわめきが戻ってくる。若夏がこちらを振り返り、春影の席を心配そうに見つめる。


「咲桜はどうしたんだろう?今日は休みかな?」

「僕も気になってたんだ。先生に聞いてみるよ。」


 担任を探すため教室の前方に視線を彷徨わせると、丁度ドアを開けて教室を出ていくところだった。冬希は慌てて席を立ち、廊下を歩く担任を追いかけた。


「あの、先生。」

「ん?ああ、月冴か。どうした?」

「春影さんは今日お休みですか?」

「そうみたいだ。体調を崩したらしい。」


 担任は出席簿を確認しながらそう答えた。

 体調不良。冬希の頭に、雨の中傘を刺さず立ち尽くしていた春影が蘇った。もしかしなくてもそのせいか。担任にお礼を言い、席に戻ると若夏と末枯から視線を感じた。


「どうだった?」

「休みらしい。体調不良だって。」

「そっか。大丈夫かな…」

「気になるんなら連絡してみたらどうだ。昨日交換していなかったか。」

「そうだね。メールしてみる!」


 心配を隠さず眉尻を下げた若夏に末枯が声をかける。ぱっと顔を上げた若夏は、鞄からスマホを取り出しメッセージを打ち始めた。少しして、若夏の指が止まった。メッセージを送信し終えたのだろう。

 一度頷いた後、スマホをじっと見つめ、今度は冬希をじっと見つめた。そして、若夏がスマホを差し出してきた。冬希はその行動の意味するところを図りかね、若夏とスマホの間で目線を行ったり来たりさせる。


「何…?」

「そういえば、Line交換してないよね。」

「あ、うん。してないね。」

「しよう、今。」

「はい。」


 爆速でLineの交換が決定した。今までの高校生活で友人と呼べるような存在が少なかったため、ホーム画面に新たに加わった二人の連絡先に、冬希の心が少し高ぶる。そこに、通知と共にもう一つ連絡先が追加された。そこに表示されている『咲桜』という文字に、心臓が大きな音を立てた。


「これ…」

「咲桜にはちゃんと連絡したから大丈夫!」


 そう言いながら親指をぐっと立てる。

 本人に了承をとっているとは聞いても、冬希から春影に何かを言ったわけではないため、落ち着かない気持ちになってしまう。だが、春影の体調が気になっていたのは確かだ。


『若夏さんにLineを教えてもらったんだ。勝手にごめん。今日学校休んでいるけど、大丈夫?』


 念の為Lineを追加したことを軽く謝罪し、春影の様子を伺う。初めての春影へのメッセージに、送信ボタンを押す手が緊張で少し震えた。

 その後、チャイムが授業の始まりを告げた。先生の説明を聞きながら、春影へのメッセージが気にかかり、妙などきどきを感じる一日となった。


 最後の授業が終わり、ホームルームが始まる前。スマホのホーム画面に、メッセージの着信を知らせる通知が表示されていた。胸の動悸を感じながらLineを開く。


『わざわざメールをくださってありがとうございます。風邪を引いてしまって…明日は学校に行けそうです。月冴君は体調を崩していませんか?』

『僕は大丈夫だよ。春影さんの方こそ気をつけてね。』


 返信すると、すぐ既読がつきスタンプが送られてきた。それを見てからスマホの電源を落とす。

 メールを読む限り、風邪は酷いものではないのだろう。安堵のため息をつき、ホームルームが始まるのを待ちながら、明日へ思いを馳せた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ