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「本当に良かったね。補講を受けずにすんで。」

「みんなのお陰だよ。本当にありがとう。」


 勉強会が功を奏し、若夏は見事に赤点を回避した。

 若夏に声をかけながら、冬希は自分の手の中あるテスト結果を改めて見返した。そこには今までの結果と比べ、より高い数字が並んでいる。当初は若夏の成績のために提案した勉強会ではあったが、春影や末枯のお陰で冬希にとっても良い時間となった。

 若夏が手を合わせて春影を拝み、鞄から取り出したノートを差し出した。


「そうだ、咲桜!」

「何でしょうか?」

「これ、ノート貸してくれてありがとう!赤点回避できたのはこのノートのお陰だよ!」

「そんな大袈裟ですよ。ですが、お役に立てたなら何よりです。」


 顔を綻ばせながらノートを受け取った。その様子を眺めていると、ある所に目が向いた。


「あんまり見る機会が無かったから気づかなかったけど、春影さんの名前、『咲桜』さんって書くんだね。」

「それ!私も思ってたんだ!」

「確かにな。」

「良く言われます。桜一文字じゃないんだって。」


 冬希の言葉を受け、春影が頷いた。


「どうしてその名前になったの?」

「春に生まれることが分かった時点で『さくら』という名前にすることは決まっていたらしいです。母は桜が好きだったので。ただ桜だけだとありきたりになるかと思ったらしく『咲く』の漢字を入れて、サクラ咲く人生になりますように、という意味を込めて、咲桜になったと聞きました。」

「へえ、素敵だね!」

「ありがとうございます。」


 春影が笑みで応えるが、ぎこちなく見えるその表情に違和感を覚え、少し前の出来事を思い返した。新学期が始まって早々の自己紹介で名前について話した時も、春影は今と同様に顔を曇らせていた。


「名前に見合った人になれれば良かったのですが…」

「春影さん…?」


 ぽつりと呟いた声に、思わず春影の名前を呼んでしまった。

 反応を見るに、どうやら若夏と末枯には聞こえなかったようだ。

 冬希に聞こえると思っていなかったのか、春影は小さく息を呑み、こちらをおそるおそるといった様に窺った。春影の瞳には何も浮かんでいなかった。

冬希がどう言葉をかけるか、そもそも言葉をかけるべきなのか考えていると、その横で若夏が口を開いた。


「2人は自分の名前の由来知ってる?」

「ああ、俺は知ってる。中学校の時だったか、そういう授業があったからな。」

「僕も同じく。」


 その返答に若夏が大きく頷いた。どうやら、そういう流れになりそうである。


「私の名前は、立つに花で『立花』。真っ直ぐ育って大きな花を咲かせられる様にっていう意味があるらしいよ。あと夏の始まりも立夏っていうらしくて、夏生まれに丁度いいって。」


 そう言いながら、両手の親指と小指をくっつけてお花を作って笑って見せた。

 若夏はいつも明るく、ムードメーカーでもあり、周りの人を自然と笑顔にさせる。まるで太陽みたいな人だと思っている。みんなを照らし元気を分ける、まさに若夏にぴったりな名前である。

 次に三人の視線が集まったのは末枯である。


「俺は、季節の秋に人と書いて秋人だ。実りの多い、豊かな人生を歩めるようにって聞いた。もう一つ、周囲を和ませられるようにっていうのもあるらしいが、残念ながらからっきしだな。」


 そう言いながら肩をすくめた。

 末枯はそう言うが、冬希はそうは思わなかった。確かに末枯は、ばしばし物を言うし身に纏う空気もどちらかといえば冷たい。しかし、そんな彼だからこそ、実直で傍に居ると一息つけるような人なのだと思う。常にひんやりとしてはいるが、どこか暖かいものを持ち合わせている。

 心の中でふむふむと納得していると、今度は冬希に視線が集中した。


「僕は、冬に希望の希で冬希。厳しさや困難に負けず希望を持ち続けて、他の人の希望にもなれるような温かい人にって言ってたかな。」

「そうなんだ。元々思ってたけど、みんなの名前がより一層素敵に感じる!」

「自分と合ってるかはさて置き、人の名前の由来を聞くのも興味深いものだな。」

「確かにそうだね!ところで…」


 会話は弾む中、冬希は一人沈んでいた。

 春影も末枯も名前と合ってないと言っているが、冬希からして見れば名前と見合っていないのは自分だけだ。困難に負けないどころか逃げてきたのだから。

 自分の弱さをまざまざと感じ、無意識に首に下がるホイッスルを握った。そんな冬希の様子をじっと見つめる薄茶色の目には気付かなかった。



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