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「残念だったねー。最後の最後で優勝逃しちゃったよ。」
「でも、リレーは一番だったじゃないですか。本当に凄かったです!」
「ありがとう、咲桜!」
春影の労りに満面の笑みを浮かべ飛びつく。そんな二人を眺めながら先程のリレーを思い返した。
白組のアンカーに迫っていた若夏は、じわじわと追い上げ最後の最後で遂に一着に躍り出て、その勢いのままゴールした。続いて白組、青組、黄組の順に走りきり、全組の戦いが終了した。
教師チームはアンカーを校長先生が任され、全員の暖かい拍手と応援の中ゴールテープを切った。
結果としては赤組は二位で終わったが、思いっきり楽しみ、思いっきり喜び、笑いで溢れた一日を過ごせた。こうして、最期の体育祭が幕を閉じた。
「もうちょっとで夏休みだー!」
若夏が両手を頭上に掲げて、満面の笑みを浮かべながらそう叫んだ。
梅雨がようやく終わり、半袖で過ごしても暑さを感じるようになってきた。
冬希たち4人の最近の話題は、もうすぐやってくる夏休みである。夏休みにどこかに遊びに行こう、と話してはいたもののまだ先のことであったため、具体的な計画までは立てていなかった。しかし、いよいよ近づいてきたことで、自然と計画を立てようということになったのだ。
「その前にテストがあるけどな。」
「そんなの適当に終わらせればおっけーよ!」
「そうだと良いけどな。」
「何よ、その含みのある言い方は。」
しっかりと釘を刺す末枯に、若夏は問題ないと軽く受け流す。そんな若夏を横目に、末枯は皮肉混じりに口角を上げた。
「心配をしているんだ。折角立てた予定がお前のせいでダメにならないかをな。」
「どういうことよ。」
「毎度テストで痛い目を見ているだろう。今までノートを貸せって何度せがまれたことか。」
「そうなんですか?」
「いや、そんなことないって!」
視線を泳がせる若夏に、春影が首を傾げて尋ねる。若夏は否定しているが、その慌てようといいぎこちない笑顔といい怪しさ満載だ。
冬希はテストについての担任の説明を思い出す。確か…
「そういえば、赤点取ったら夏休みに補講があるって…」
「え⁉︎初耳ですが⁉︎」
「えっ…」
冬希の呟きにカッと目を見開き、凄い形相でこちらを向いた若夏のその勢いに思わず肩を揺らした。
担任はあんなにはっきり補講についてクラスに説明し、クラス中からブーイングまで受けていたが、それを覚えていないとは。思わず目を丸くし若夏を凝視した冬希に、末枯は苦笑した。
「こいつが先生の話をちゃんと聞いてると思うか?」
「…」
「ちょ、ちょっと。その反応はなによ!」
末枯の問いに思わず沈黙した。
冬希の席は若夏の後ろであるため、普段の若夏の授業中の様子がよく窺える。しかし思い返してみると、授業中時計を幾度も確認したり、舟を漕いでいたり、窓の外を眺めていたり。思い返されるのは確かにテストの結果が心配になるような姿ばかりだ。
冬希の横に座る春影も、そんな若夏の様子を目にしていたのだろう。若夏を見る春影の視線に呆れや憐憫が見えるのは気のせいだろうか。みんなからの視線を受け、流石の若夏も居心地が悪そうに身じろぎする。
「若夏さんは今までどうしていたんですか?」
「色んな人にノートを借りて何とか…」
「こいつはちゃんとやれば良いところまでいけるんだ。なのにやらないから。」
末枯は呆れたように息を吐いた。そんな末枯を睨むように見たあと、若夏はこちらに期待の眼差しを向けた。
その視線を受け、何を言われるのか予想がつき春影と目を合わせる。
「お願い!ノートを貸して!」
若夏が両手を顔の前で合わせて頼み込む。
思った通りだ。冬希はノートよりも教科書を使って復習をするため、若夏にノートを貸したところで問題はない。そう思い、冬希は苦笑しながら了承の返事をしようとすると、それより早く末枯が若夏を冷たい目で見ながら言った。
「月冴も春影も貸さなくて良いぞ。自業自得だ。」
「秋人酷い!」
「一回痛い目を見れば学ぶだろ。」
「秋人には頼んでないもん。咲桜はそんな酷いこと言わないよね。」
末枯に白い目で見られ、春影に縋りつく。春影は眉尻を下げ、困ったように微笑んだ。
「ノートでしたらお貸しできますけど…」
「咲桜!」
春影の言葉にぱっと表情を明るくして抱きついた。
その様子を見て冬希は提案した。
「テストまで、みんなで勉強会でもする?」
「それ良いね!みんなと一緒だったら勉強もきっと捗るよ!」
「楽しそうですね。私も良いと思います。」
「じゃあ、全員参加で!」
「おい、俺は何も言ってないぞ。」
いつもの如く末枯の意見は黙殺され、放課後は勉強会が催されることとなった。
始めは一人で雑談に花を咲かせかけていた若夏も、集中したら持続するタイプなのか次第に黙々と勉強に励み、紙を捲る音とペンが走る音だけが図書室に響いた。末枯も春影もテストでは常に上位に入っているため、分からないところを教えてもらうことができ、冬希にとっても有意義な時間となった。
帰り道。
「テストなんてやる必要ある?」
若夏がそうぼやく。
「あーあ、テストが体育だけだったらいいのにな。」
「お前の言う体育は実技だろ。体育だって筆記の試験がある。」
「体育って筆記いる?実技だけで良くない?」
「私は逆に筆記の方が嬉しいです。体を動かすのは苦手なので。」
「俺もだ。実技こそいらん。」
みんなの会話を聞きながら自然と笑っていた。その様子に気づいた春影が隣に並ぶ。
「どうかされました?」
「いや、なんか良いなって思って。」
冬希の曖昧な言葉に春影は不思議そうに顔を覗き、そして柔らかに微笑んだ。視線を移し、前を歩く末枯と若夏の姿を捉える。
「これからもっと楽しくなりそうだね。」
「そうですね。夏休みが控えていますし。」
「おーい。2人ともー!」
少し前を歩いていた若夏が振り返り、手を振る。冬希は春影と笑い合い、若夏と末枯の元に駆け寄った。




