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「位置について、よーい…」
ーパァン!
スターターピストルが鳴り響き、各チームの第一走者が一斉にスタートを切った。
全十ペアの内、冬希・春影ペアは七番目、若夏・末枯ペアはアンカーである十番目に走ることになっている。どんどん繋がっていく襷が自分の番を近づける目印となり、心臓が早鐘を打つスピードが上がっていく。
「次のペアはスタートラインに立ってください。」
「「はい。」」
前々の組がスタートしたタイミングで進行審判の生徒に案内され、目を合わせて頷き合い腰を上げた。
立ち位置につき、一声かけてから春影の片足に自分の足を近づけ紐で結んだ。
「きつくない?」
「はい、ありがとうございます。」
「楽しもうね。」
少し硬くなった表情筋を手で解しながら笑いかけると、春影も詰めていた息を吐き微笑んだ。多少の緊張はほぐれた様だ。
現在の状況を窺おうとグラウンドを見回すと、前の組が残り半分といった距離まで迫っていた。どうやら三番手でバトンが渡りそうである。春影の背中に手を回し、体操服が引っ張られ掴まれた事を確認する。
「外側の足から行くよ。」
「はい!」
「「せーのっ」」
声を揃えて足並みを合わせながら、前にある背中を追う。練習よりスムーズな足捌きでぐんぐん進み、コーナーの半分に差し掛かった。
何も発さずとも自然とスピードが上がり、次の組へのバトンパスまで後少しというところで差し迫っていた前の組を追い抜き、二位に浮上した。そのまま次の組にバトンを繋ぐ。
「はあ、はあ…お疲れ。」
「お疲れ様です。楽しかったですね!」
無事走り抜き、他の生徒の後ろに座りながらお互いの健闘を讃えた。冬希が片手を手のひらを春影の方に向けて差し出すと、その意図を察して満面の笑みで片手を合わせ軽い音を鳴らした。
丁度スタートラインに移動する所だった若夏がぴょんぴょん跳ねながら両手を振ってきた。そこから労いを感じ取り、感謝とエールを込めて両手で拳を作り顔の辺りでかざすと、任せてと言わんばかりに胸の辺りを数度叩いて見せた。
まもなく各アンカーに最後のバトンが渡った。
「今のところ順調ですね!」
「うん、そうだね。でも…」
今の所は本当に順調に進んでいる。実際二着でスタートした若夏・末枯は、快調な走りで一着との距離を抜きそうな所まで詰めていた。
「でも?」
「ちょっと速くないか?」
呟きを拾い首を傾げた春影に、感じた違和感を伝えると春影は再度二人へと視線を向けた。
「確かに…?」
「というよりも、若夏さんのスピードが上がっていないか?」
グラウンドのコーナーを半周してバトンを渡すルートのため背中しか見えないが、末枯が悲鳴を上げていそうな気がした。そして最後の直線に入ったところで。
「「あっ。」」
二人の声が重なる。ペースを保ったままいけば一着でのゴールが目前だった状況で、足並みが乱れバランスを崩し、盛大にこけた。若夏がぱっと立ち上がり末枯の手を引くが、当の末枯は中々起き上がれない様子だ。そうなると、あまり差が開いていなかった事もあり後続がどんどんゴールテープを切っていき、最後尾での決着となった。
「お二人らしい結果ですね。」
「だね。」
顔を見合わせて吹き出しながら起立し、一度グラウンドをゆっくり見渡したのち指示に従って退場した。
「はあ、はあ…お前は、ふざけるなっ…」
「いやー、ごめんごめん。テンション上がっちゃって。」
グーで握った手をコツンと頭にぶつけて、全く誠意を感じない謝罪が行われる。末枯が案じていた通り、テンションが高揚した若夏は練習より大幅に速度を上げてしまい、ついていけなくなった末枯は足がもつれたらしい。
恨みがましい目で睨まれた若夏は、次の競技である台風の目のため颯爽と去っていった。
「覚えとけよ。」
「まあまあ、そう言わずに。」
怒りを溢す末枯を宥めながら、共にテントに戻り腰を落ちつかせる。冬希が出る予定の競技は全て終わったため、あとは気楽に応援するのみだ。
他学年の競技を楽しみ若夏にエールを送り、あっという間に最後の演目である選抜リレーが始まった。選抜された生徒と共に教師陣も入場し、会場は大いに盛り上がった。
「位置について、よーい…」
ーパァン!
最後のピストルが響き渡り、一斉に足音が駆けた。赤・白・青・黄に分かれ、一年生から三年生に襷を繋いでいく。
先頭を走るのは教師チームで、その後に白、赤、黄、青の順に続く。始まったばかりとはいえ、先生が一番を走っている現在に目を見開いてしまったのだが、体育を担当している教師だった。二番手に控えているのも同じく体育が担当教科であるため、先生と生徒のガチンコ対決が繰り広げられている。
三番手にバトンが渡った時点で教師チームが圧倒的にリードを奪っていたのだが、その後はじわじわと(割と直ぐに)差を縮められ最後尾を全力で直走っている。
「あっ、もうそろそろ若夏さんの出番ではないですか?」
「本当だ!というかアンカーなんだね!」
「足だけは速いからな。」
若夏がスタンバイする姿を捉え盛り上がっていると、横から呆れを含んだ声が飛んできた。
末枯は若夏への言葉に容赦がないが、それは二人の間に確かな友情があるからこその事なのだと理解している。それからは遠慮の欠片もない言葉でさえも微笑ましく思ってしまう。
「若夏さん頑張ってください!」
「頑張れー!」
みんなからの声援を受け、遂に若夏がバトンを受け取った。今までは半周だったが、アンカーだけはグラウンドを一周する。
「本当に速いね。」
三番手で走り出したはずだがすでに一つ順位を上げた。生徒が一丸となって声援を送り、今日一番の熱狂の渦が巻き起こっている。
刻一刻と終わりが近づき、そして、ゴールテープが切られた。




