149.決戦⑬
ヴィィイイイィンッッ!!
シュトローム諸共ザダルに振り下ろした剣圧が、いつもより数段増している気がした。
...だが、しかし、その剣先が何かを斬ることは無かった。
ブシュウゥッ!
「ぐわあぁッ!」
シュンの攻撃が当たらなかったはずのシュトロームが両腕を失い、その痛みに天を仰いでいる。
「!?エデンッ!」
シュワワワワワワ
状況は理解できないが、とにかく回復だ。シュトロームはまだ生きている。
「はぁっ、はぁっ、なんだか分らんが、助かったぜ...」
ザダルは!?
慌てて後ろを振り向くと、大きな二本の腕を持ったザダルが立っていた。
ドサッ。
「...なかなか焦ったよ。君達二人には敬意を示そう」
切断されたシュトロームの腕を捨てたザダルの顔から余裕の笑みが消える。
メキメキメキッ!
エデンで回復したシュトローム。ブラックホールにやられた右足と、たった今切断されたばかりの両腕が、覇王と従者の証で受け渡した自己再生の力で蘇る。
「...厄介な治癒能力まで持っているようだね。そうか。シュン、君も今みたいな力で復活してきたんだね」
「......」
しかし解せないのは、確かに一緒に切りつけたはずのシュトロームが無傷だったことだ。
腕をザダルに切断され、逃がしてしまったのは分かったが、シュンの攻撃が全く跡形も無いのは何故だったのか...?
「シュトローム、もしかして...」
「従者の証...か?」
考えられるのは特殊スキルの力。
シュンの攻撃が一切シュトロームには通らないとなると、俄然戦略の幅が増してくる。
「ふふふ、いいぞ。思わぬ見っけものだな」
「クックック。全くだ。俺を気にせずシュンは全力が出せるんだからなぁ!」
「何を二人で笑っているんだい?不愉快だな。ちょっとだけ本気を出そうかな」
メキメキメキ
冷徹な目をしたザダルが両腕を竜化させる。
元の細腕からは想像もできない、太く逞しい、漆黒に艶めくドラゴンの腕が現れた。
「...覚悟しなよ」
ボッ!
キィン!
ルーン・コアで辛うじて鋭い爪を防ぐ!
ドゥッ!
「グゥッ!」
かと思えば次の瞬間にはシュトロームの懐深くに強烈な蹴りを見舞う。
シュトロームは大剣ロードインパクトでその攻撃を防いだが、威力を抑えきれず数メートル後方に吹き飛ばされる。
「グラビティショット!」
そして次の瞬間にはザダルの拳から例のブラックホールが打ち出された。
ゴォォォオオオオォォォッ!!
先程までの音のないそれとは違い、今度のブラックホールは物凄い勢いでこちらに飛んできた。
「シールド!」
ブワァァァッ!
シュゥゥゥゥ...
ぎりぎりの所で展開されたシールドがブラックホールと相殺される。
「今度は防御魔法か...。君は本当に多彩だねッ!」
ドッ!
「ぐわぁッ!」
大木程もある巨大な竜の拳がシュンを吹き飛ばす。
ズザザッ
「シュン!」
「がふっ!だ、大丈夫だ」
たった一発の正拳突きで内臓がやられたのか、喉の奥から鉄の臭いがこみ上げてきた。
「しかし...君達二人とも再生能力があるんじゃなぁ。どうやって殺せば良いんだろう?」
「......」
こっちだってお前をどうやって殺せば良いのか分からない。
「うーん。あんまり使いたくないけど...。やっぱりブレスしかないかな?跡形も無く消し飛べば、流石に再生もくそもないでしょ」
竜人族最大にして最強の攻撃、ドラゴンブレス。ザダル程の竜人となれば力の加減は達人の域だろう。
「シュン!お前は話に聞いただけだろうが、アレはマジでやべぇぞ!なんとしても使わせるんじゃねぇ!」
「!分かった!」
左大臣ジェミニのブレスにやられていたローザとシュトロームは酷い有様だった。
「ふふ、どうやって使わせないつもりかな?」
そんなシュン達の焦りをよそに、完全に竜化すべくザダルの胸が黒く輝きだす!
「くそッ!獄炎玉!」
音も無く現れる透明の半球。
「...またこれかい?いくらやっても無駄なのに...」
ビリビリッ!カタカタカタ!
内部に地獄の業火が吹き荒れる。
しかし...。
効果が終わると、やはりそこには無傷のザダルの姿が。
「剛雷撃!」
スキルに呼応し、異空間内に立ち込める暗雲。
ズガンッ!ドガガッ!
ズガガガガガガガガガガガッッ!!
絶え間のない轟雷の雨。
効かないと分かってはいても、最大限効果を長くし、奴が動けないうちになんとか策を講じるしかない。
ガルヴァリのゴブリン大襲撃の時のように交互にスキルを使い続けるんだ!
と、考えていた次の瞬間!
バッ!
「あッ!」
ドガガッ!
「あぶッ!」
スキルとスキルの一瞬の隙をついて、ザダルが急接近!大きく鋭い竜の爪でシュンに強烈な一撃を浴びせる。
胸に深い傷を負い、またしても一撃でHPの大半を失う。
「ヒ、ヒールッ...」
シュワワワ
「...ちょっと、君、うっとおしいな。結構本気で殴ったのに、何その不死身さ...。やっぱりブレスで塵にしてやろう」
「ルフトッ!シュトロォォォム!」
そうはさせまいと、横からシュトロームの風炎融合術が炸裂する。
ゴォォォォォオオオオ!
その時、炎のうねりの隙間からチラリとザダルが見えた。
炎に飲まれるザダルの身体は、大半が異次元空間に逃げ、所々しか残っていない。
両足もほとんど消え去り、あれでは歩くこともできなそうだ。
「えっ?」
なん、だと...?
歩くこともできない...。
持続的に攻撃を受けている間は...歩けない!...動けない!?
思い返すと、スキルの効果中はザダルはいつだって歩いてなかった!動いていなかった!
ザダルに初めて攻撃を当てた時、ヤツは確かこう言っていた。
"無意識に空間を操作して、攻撃を受けた部分だけを異空間に逃がす"
つまり身体の大半が異空間に自動的に、強制的に行ってしまうということ!
あれは動かなかったんじゃない。動けなかったんだ!!
「シュトローム!できるだけヤツに攻撃を当て続けてくれ!」
「!?何か閃いたか!了解だぜぇえ!」
動けないヤツには次元制御が確実に当たる!
「炎術!ファイアチェーン!」
ゴウッ!
ゴウッ!
ゴウッ!
ゴウッ!
ゴウッ!
5つに連なる巨大な火の玉が続けざまにザダルを襲う!
「獄炎玉!」
ビリビリビリッ!
ガタガタガタッ!
炎の連続攻撃でザダルを視界に捉えることはできないが、感知で見ると、敵対心剥き出しのザダルが動けずに確かにそこにいる。
「シュトローム!今だ!次元制御をヤツの上半身に当ててくれッ!!」
「何ぃっ!?んなこと言われたってそんなピンポイントに発動するなんてッ!どこにいるか正確に分からねぇと...!」
「大丈夫だ!ヤツはいたところから一歩も動いてない!いや、動けないんだ!」
「!!そういう事かよッ!そんならキッチリ当ててやろうじゃねぇか!」
シュトロームがスキルが発動する前にいた場所に向かい狙いを定める。
「いくぞぉ!次元制御ッ!!」
半球内で炎に包まれて中の様子を伺い知ることはできないが、感知でザダルの位置を探りながらシュトロームのスキルが当たっていると信じる。
そして...。
「くらえ!召喚魔法!槍千本!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ...
ザダルの頭上、異空間内に亀裂が入り、更に別次元の異空間が開く。
ドラゴンより巨大であろう巨人族の一つ目が炎に包まれるザダルを捉え、いつものように一度引っ込んだかと思うや...。
キュン!
キュン!
キュン!キュン!キュン!
キュン!キュン!キュン!キュン!キュン!キュン!
キュン!キュン!キュン!キュン!キュン!キュン!キュン!キュン!キュン!キュン!キュン!キュン!キュン!キュン!キュン!
狭い範囲に力強く投げ込まれ、絶え間なく降り注ぐ光の槍一千本。
キュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュ!!
「うぉぉぉぉ!シュン!!」
確かな手ごたえを感じ取り、嬉々とした声を上げるシュトローム。
「シュトローム!次元制御を切らさないでくれ!あれが効いてる間は身体が異空間に逃げられない!ダメージが通ってるはずなんだ!」
「分かってるぜぇ!絶対にこの槍が降り終わるまで!こいつは切らさねぇ!!」
「いや、まだだ。剛雷撃!」
ズガガガガガガガガガガガッッ!!
「...マジかよ。容赦ねぇ...」
「当たり前だろ!油断したらこっちがやられるんだぞ!?」
「ぐッ!そうだよなぁ!くそぉ!だがいつまで持続するか分からねぇ!やるなら早くとどめを刺してくれぇッ!」
「分かった!」
この轟雷の雨の中に突っ込むのは勇気がいるが、とどめはルーン・コアで確実に刺しておきたい。
「自分のスキルだ!。当たらないでくれ!」
気合を入れ、感知で補足しながら一息にザダルに迫る。思った通り、自分自身にはスキルは当たらないようだ。
「これでッ!終わりだぁぁぁぁッッ!」
ザンッッ!
光の槍と雷の雨の中振り下ろした長剣は、ザダルの肩口から斜線上に上半身を切り裂いた。




