彼女②??
「え……? いいことって……?」
「悠の彼女になればいいのよ!」
私が満面の笑みで言い放つと、玲奈は完全にフリーズした。
数秒の静寂の後、内容を理解した彼女の顔がみるみるうちに驚きと狼狽で染まっていく。
「ええぇぇっ!? ちょっと彩羽、何言ってるの!? 斎藤くんは彩羽の彼氏でしょ!?」
「落ち着いてってば。声が大きい」
私は苦笑いしながら、周りに誰もいないことを確認し、声をひそめて事の経緯を話し始めた。
元カレに付きまとわれて困っていたこと。街でたまたま悠に助けてもらったこと。厄介払いと悠のモテ対策という互いの利害が一致して『偽装カップル』を演じていること——。
「……というわけ。だから私と悠は、ただの『偽装彼氏・彼女』ってこと!」
語り終えて私が胸を張ると、玲奈はパチクリと何度か瞬きをし「はぁ〜……」と深い溜め息を漏らした。
「なるほど……そんなドラマみたいな裏事情があったんだ……。彩羽が急に付き合い始めたからびっくりしたけど、そういうことだったんだね」
「そうなの。だから大丈夫よ。それにさっきは彼女なんて大袈裟なこと言ったけど悠の近くにいるだけで十分牽制できるわよ。あいつオーラ凄いじゃない」
納得したように何度も頷く玲奈。けれどすぐに、眉を八の字にして申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「たしかに斉藤くんなら近くにいるだけでも他の男子を牽制できそうだけど……さすがに斎藤くんに迷惑じゃないかな? ……」
「大丈夫、大丈夫! あの男のことだから、理由を話せば『おもしろそうじゃん!』って二つ返事で乗ってくるに決まってるわ!」
——そして、数日後。
昨日まで三人だった俺たちのグループに西川が加わり、見事な四人グループが結成された。
当然ながら、校内を駆け巡る噂のスピードは光速だった。
……のだが、ここで一つ予想外な事が起こった。
校内の噂で「西川は悠の彼女(嘘)②」ではなく、「西川は辻村純の彼女」として広まってしまったのだ。
いや当然と言えば当然かも知れないが、面白そうなことに気を取られ、すっかり頭からスッポ抜けてしまっていたのだ。
「……おい、悠」
昼休みの中庭。純が氷のように冷たい視線を俺に向けていた。手に持った文庫本は固く閉じられ、瞳にはかつてないほどの鋭い視線が宿っている。
「悪い、純……! マジで予想外だったんだ!ホントっに悪い!」
俺は速攻で頭を下げ、両手を合わせて全力で謝罪した。
隣では西川が、今にも泣き出しそうな顔で小さくなって震えている。
「ご、ごめんなさい辻村くん……! 私のせいで変な噂に巻き込んじゃって……! 本当にごめんなさい……!」
「……はぁ」
純は深く、重い溜め息を一つ吐き出すと、泣きそうになっている西川ではなく、平身低頭な俺へと視線を戻す。
「西川さんが謝る必要はない。……すべての元凶は、深く考えずに二つ返事で面白がって了承した、このバカだ」
「うっ!その通り!本当に悪い!」
純の言い草はムカつくところもあるが今回ばかりは俺が100%悪い。このままだと純の日常生活に支障が出かねない。
「とりあえず急いで噂を訂正して回るから…」
俺が、まずは手始めに教室に行くために、走り出そうとすると純は「はぁ」と息を漏らした。
「……このままでいい。いちいち弁明して回るのも面倒だ。元から他人の目など興味はないからな。」
そう言うと、純は再び本を開いて読み始めた。
「純……! お前、やっぱり最高の親友だな!」
「勘違いするな。貸し一つだ」
冷たく言い放つ純だったが、やっぱり根はめちゃくちゃ優しい。こうして色々ありつつも俺たちの「嘘から始まる賑やかな日常」は、より一層ドタバタ感を増していくのだった。




