side 市ヶ谷彩羽
「まさか、彩羽があの斎藤くんと付き合うことになるなんてね〜」
購買で買ったイチゴミルクのストローを咥えながら、玲奈がどこか遠い目をして呟いた。
「まあね〜。人生、何が起こるか分からないものでしょ」
(玲奈、嘘ついて本当にごめん……!)
仲の良い友達に嘘をつき続けるのは心が痛むけれど、あの事情を説明するのは大変だし、ややこしくなるだけだ。
元カレの件を颯爽と解決してくれた悠には本当に感謝しかない。おかげで変なストレスからも解放されたし、当分の間、リアルな男なんて心底懲り懲りだ。
「……はあぁぁぁぁ……」
玲奈が、まるでこの世の終わりのような重い溜め息を吐き出した。
「ちょっと、どうしたのよ急に? 」
「それがね……彩羽。この前、他クラスの男子から告白されちゃって……」
「えっ!?」
私は驚きで目を見開いた。
「また? それに最近、休み時間になるたび廊下で男子からやたら話しかけられてない?」
「そうなの。 本当に困ってて……。私のことをそんな風に思ってくれるのは嬉しいんだけど…」
私は思わず苦笑いを浮かべた。
玲奈とは中学時代からの付き合いだけれど、当時からとにかく男子からのアプローチが絶えない。透明感のある可愛らしい顔立ちに優しい雰囲気、そりゃあ男子がほっとくわけがないのだ。
けれど、男子たちがどれだけ情熱的なアプローチを仕掛けようとも、玲奈が首を縦に振る確率なんて万に一つもないことを、私は痛いほどよく知っている。
「私の好きな人は……二次元の推しだけなのーーーーーっ!!」
玲奈は顔をバッと上げると、周りに聞こえないくらいの小声で、けれど心の底からの叫びを上げた。
そう、この可憐な美少女の正体は、生粋の重度な二次元オタク。
リアルな男子からどれだけ言い寄られようが、彼女の情熱のすべては「推し」だけに注がれているのだった。
「次のイベントもあるのに、現実の男の人に対応してる時間なんて……」
本気で泣きそうな顔をしている玲奈。その姿は困り果てているのが痛いほど伝わってきた。
「う〜ん……」
私は腕を組み、うーんと唸りながら考え込んだ。親友がここまで追い詰められている以上、なんとかして助けてあげたい。
一番手っ取り早くて確実な解決策は、間違いなく私と同じ方法だ。
つまり『彼氏(嘘)』を作る、、、もしくは彼氏とまではいかなくとも特定の親しい男子を作ることで、周りの男子からのアプローチを牽制する。
けど、それには大きな問題があるのよね〜。
協力してくれる男性側の条件が厳しすぎるのだ。玲奈のオタク趣味を笑わずに理解してくれて、変に本気にならず、口が堅くて、なおかつ黙っているだけで男を虜にしてしまう美少女である玲奈に釣り合うスペックの男子。
(そんな都合のいい人、簡単にいるわけ……)
そこまで考えかけて、私の頭の中に『ある男』の笑顔がポンッと浮かんだ。
(……いや、待って。身近に一人いるじゃない!)
ノリが軽くてフットワークが抜群に良く、事情を話せば笑って協力してくれそうな奴。
しかも、顔が良くて女子からの注目度も抜群だから十分に玲奈とも釣り合う。
私はハッと目を見開き、突っ伏している玲奈の肩をバッと掴んだ。
「玲奈、顔上げて!」
「なに、彩羽……?」
「いいこと思いついたわ!」




