噂
「噂になってるな」
昼休み、純が文庫本から視線を上げずに言った。
「俺と彩羽が付き合い始めたんじゃないか、ってやつだろ? 知ってる知ってる。廊下歩くだけで視線が刺さる刺さる」
それもそのはずだ。今までほとんど接点のなかった俺と彩羽が、急に揃って登校したり、休み時間に名前呼びで親しげに話すようになったのだから、周囲がざわつくのも無理はない。
事情を知っているのは、俺と彩羽、そして昨日の夜におおまかな経緯だけ説明した純の三人だけ。
「まさか偽装彼女をでっち上げるとはな……」
「まあまあ! これで周りの女子に変な期待を持たせることもなくなっただろ? 一件落着だ」
俺がニヤッと笑って親指を立てると少しだけ眉をひそめて俺をじっと見つめた。その瞳には、いつもの冷ややかな呆れ顔とは違う、微かな懸念が浮かんでいる。
「……お前は、それでいいのか?」
「ん?」
「もし今後、お前に本当の意中の相手ができた時、どうするつもりだ。その関係のせいで上手くいかなくなるかもしれないんだぞ」
純は表情がほとんど変化せず口数が少ないので冷徹に見えるが、なんだかんだ優しい。
(……参ったな)
少し迷ったが俺は口を開いた。
「あはは、心配いらないって。俺さ、そういう恋愛感情みたいなの、抱かないからいいんだよ」
純は珍しく少しだけ目を丸くした。だがすぐにいつものクールな表情に戻ると、小さく頷いた。
「……そうか。ならいい」
「おう、サンキュー!」
それから数日。彩羽の元カレ対策と、俺のモテ対策という互いの利害が完全に一致した俺たちは、学校内で頻繁に一緒に過ごすようになった。
俺は、これで平穏な高校生活が送れるなと、能天気に高括っていたのだった。




