トラブル遭遇
次の日の放課後。
委員会の用事を終え、人気のない廊下を歩いていたその時だった。
少し先に見覚えのある後ろ姿が目に飛び込んできた。
(ん……? なんだ、あれ。確か同じクラスの……市ヶ谷……彩羽だったけ?)
市ヶ谷は男子生徒に腕を掴まれ、なにやら言い合いをしている。様子が明らかに怪しい。
「離してよ!」
市ヶ谷の必死で切羽詰まった声が響く。男はフンと鼻で笑った。
「は? それが彼氏に向かって言う言葉かよ」
「何言ってるわけ!? ハッキリ別れたでしょ! 完全に他人よ!」
(なんだ、トラブルか? だいぶ険悪だな……)
穏やかじゃない会話に、俺の眉間が自然と寄る。だが、男は引き下がるどころか、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながらさらに距離を詰めた。
「それさぁ、お前が勝手に言っただけだろ? 俺は一切納得してねぇから。つーか、お前そういう身勝手なところがあるからさ――」
「しつこい!!」
彼女が拒絶の声を張り上げる。その瞬間、男の顔から余裕が消え、般若のような怒相に変わった。
「お前……調子に乗ってんじゃ――」
(あ、これヤバくね)
手を振り上げようとする男の動作が見えた瞬間、思考より先に身体が動いていた。
俺はヘラッとした軽いノリの笑みを貼り付けると、二人の間にぬるりと割り込んだ。
「ねえ、俺の彼女に何か用?」
「え……!? 斎藤、くん……?」
突然現れた俺に、市ヶ谷が目を丸くして息を飲んだ。市ヶ谷へ「合わせろ」とだけ視線で合図を送ると、彩羽はハッと息を飲み俺の制服の袖をぎゅっと掴んで叫んだ。
「そ、そうよ! 私、もうこの人と付き合ってるんだから!」
「あぁ!?」
男の顔が怒りで真っ赤に染まる。
「はぁ!? お前、もう他の男作ったのかよ! 調子に乗りやがって……!」
俺は市ヶ谷を後ろに庇うと激昂している男を見返した。
「……あのなぁ、一方的な暴力なんてクズのやることだからな。」
「テメェ、調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」
わっ。めっちゃ怒ってやがる。どうやってこの場を収めよう、、。下手にしたらこの男、本気で殴ってきそうだし、、、あ、
「あ!先生、、、」
「は?嘘つくなよ!」
「ホントだって。後ろ見てみなよ。」
男が振り返る。振り返った廊下の先には本当に先生が角を曲がってこちらに歩いてきていた。
「この場を先生が見たらなんて言うか楽しみだな」
「くそっ!」
悪態をつくと男子生徒は走り去っていった。
この時は思いもしなかった。
この「俺の彼女」という咄嗟の嘘がきっかけで、俺の高校生活がとんでもない泥沼に突入していくことになるとは――。




