俺という存在
「ねえ、見た? 1組の斎藤くんと辻村くん」
「やばいよね。斎藤くんは太陽系イケメンでノリも最高だし、隣の辻村くんは知的でクール系でかっこいい……!」
高校に入学して約一ヶ月。独特の緊張感と期待が入り混じった空気が消え去り、新しい生活にも馴染み始めた頃。
昼休みの廊下を並んで歩く二人に、多くの女子生徒たちの視線が注がれる。
いわゆる正統派イケメンで運動神経が良く誰とでも分け隔てなく話せる俺——斎藤悠。
そして、どこか浮世離れした落ち着いた雰囲気と涼しげな整った顔立ちでファンを急増させている親友ーー辻村純。
俺たちは入学して瞬く間に校内にその名を知らしめていた。
自分で言うのもなんだが俺はイケメンでモテる。
学校の廊下を歩くだけであちこちから視線を集め声をかけられる。入学1ヶ月で、すでにファンクラブが設立され会員数が三桁をいったとかいってないとか。
顔がそれなりに整っている自覚はあったが、高校でまさかここまでモテるとはな。
いや〜、モテる男ってのは実に辛いねぇ。
「おい、お前。とてつもなくくだらないことを考えていただろう」
隣を歩く純が、手にしていた新書版の文庫本から視線を一切外さないまま指摘してきた。純とは高校で知り合ったのだが、不思議と馬が合い1ヶ月で昔からの仲のような間柄になっている。
「なんのことだ〜? 俺はただ次の授業はなんだったけな〜って考えてただけだぞ」
「嘘をつけ。お前のその顔はくだらないことを考えている時の顔だ。……まあ、いいが」
純はパタンと音を立てて本を閉じると、溜め息混じりにチラッと周りに視線を向ける。
「それにしても、相変わらず大人気だな。お前といると落ち着かん」
「いや〜まったくだよ。まあ俺、顔もルックスもいいし?その上、運動神経バツグン、性格良し、コミュ力もある。ドンビキするくらいモテ要素が揃いに揃ってるからね〜。注目されちゃうのは当然っていうか?」
俺がニヤッと笑いながら肩をすくめると、純はカバンを自分の机に置きながら心の底からゲソッとした顔で一刀両断した。
「……このナルシストが。お前みたいな奴がモテる理由がわからん」
「俺の魅力が分からないとは可哀想なやつだな。でもさ、純だって実際かなりモテてるだろ? なあなあ、実際のところどうなんだよ? 誰か気になってる子とかいないのか?」
純は露骨に嫌そうな顔をして、ハァと深く大きな溜め息をついた。
「興味ない」
「え〜。なんかないのかよ」
「なに、話してるの〜?」「おはよー」
話しているとクラスメートで友達の女子達が集まってきた。
「おはよー。それがさー」
などと話していると気づいたときには俺と辻村の周りにはたくさんの人……女子が集まっていた。そう、女子だけなのだ。別にそれが嫌な訳では無い。全員、話していて面白いし、良い友人ばかりだ。………だが。少しは辻村以外の男子とも、もっと話したい。
悲しいことに、女子からの絶大な人気とは裏腹に、俺たちの周りには同性の友達がめっきり少なかった。モテすぎる男子というのは周りの男子生徒たちから見えない壁を作られ、遠巻きに観察される運命にあるらしい。
まあ悩んでも仕方ないことだ。ここは辻村という存在がいたことに感謝しよう。
辻村を連れ回すのは思いのほか面白い。あ、今度あそこに……
「なあ、辻村…」
「断る」
「俺、まだなんも言ってねーけど!?」
「お前の顔を見れば分かる。どうせ面倒くさいことだろう」
うぐっ。たしかにそれはそうなんだけど……。もう少し考えてくれたっていいだろ!
「お前な〜。もう少し友達ってもんを大切にしろよ!」
「そうか。なら嫌がっている友達を連れ回すのは、友達を大切にしていると言うのか?」
「うっ…、それは…!」
なんやかんやありつつ俺は楽しく高校生活を送っていた。……この時までは。




