間隙の一刺し ─Sortie─
《こちら空中管制機ラウンドテーブル、架橋された全ての浮桟橋及び幹線道路沿いに布陣する敵部隊を叩け。作戦開始》
《おいおい、AWACS付きかよ。豪勢だな》
《こちらも雇われだ。『向こう側』に雇われていなくて幸運だったな》
《この国は金だけはあるのさ。オイルマネーって奴だ。行くぞ、作戦空域に侵入する》
機体の軋む音、エンジン排気の音が地表から跳ね返る音、自らの呼吸。それらに交じり、遅れたタイミングで空域に侵入する味方の通信がヨーコの耳に届く。操縦桿を倒し、機体を地面と垂直に立てて地表面を這うように旋回。キャノピーの外側、翼桁よりほんの僅かな距離に地面が迫り、後方へと流れていく。
規則的に並べられた防風林の隙間を三つの機影が飛び抜け、すり抜けざまに風圧でポプラを揺らす。超低空での地形追従飛行、樹々を避けるために高度を上げる事すら躊躇われる。
《敵機侵入! 空襲警報鳴らせ!》
《第二波だ、高度10000ft、機数十一、対空戦闘!》
敵の急を告げる通信傍受内容に、一瞬眉がつり上がるが、これは自分達ではないと分かった。自分達は10000ftと言う高さを飛んでいない。レーダーを避ける目論見は上手く行っているようだった。
丘陵を抜け小川が迫る。目標までしばしの間この小川に沿って飛ぶ。さらに高度を下げるため、機を逆さにし、一瞬の背面飛行で高度を落としてから再び水平に戻す。
「ダイヤ、ちゃんと着いて来ているかしら?」
《ご婦人のケツにピッタリだ、見くびるな》
《こちとらATAC出身だ、この程度でビビりゃしねえ》
その言葉を疑いはしない。後方を見やるまでも無く、ヨーコは操縦桿を倒して小川の湾曲に沿って機体を操る。機体を左右へと振るたびGがシートに身体を押し付け、血流を下半身へと追いやろうとする。その為の耐Gスーツだが、その機能にも限度はある。頭部からの血流が下半身へ流れるのを阻止する事はできない。超高速域での急旋回では特にそうだ。
機体の性能限界も、肉体に発生する現象も、それらは全て経験や生きてきた年数では制御しきれない。全て物理現象は生きとし生きる者に平等に発生する。だがそれを自らで御せる範囲で御することが素人とベテランを分ける部分で、生死を賭けて戦う上で肝要な部分なのである。
ヨーコの視界前方、小川の上に影が映る。ボート、いや、やや大きい。一瞬の航過、一瞬キャノピーの外にとらえたそれは河川砲艦だった。この地域は敵の支配下、つまりあれは敵艦である。
《見られたな》
「ええ、通報がいくわね」
《敵は迎撃態勢に入るぞ。ペースアップするか》
「このままで行くわ。焦りは禁物よ」
ヨーコは通信チャンネルを少し調節し、敵の無線通信に耳を聳てる。攻撃態勢に入っている味方の通信、対空攻撃を開始する敵部隊、対空ミサイル部隊の号令。それらに交じり新たな敵機の侵入を告げる通信が聴こえてくる。
《至急、至急、こちらラスタル・カタルジュ。敵機が侵入した!》
《こちらは防空指令所、敵機の侵入は既に検知している。現在防空戦闘が進行中だ》
《違う!! そっちじゃない、敵機が三機、超低空で侵入した。飛行場へ向かっているぞ!!》
目標の野戦飛行場まであと約140秒。敵が手練れであれば更に飛行場への通報が行き、本格的な防空体制を整えるのには充分か、少し遅れるか。最低でも対空機関砲が上がってくるのは間違いない。最悪攻撃終了後に背後を携帯対空ミサイルで撃たれるだろう。
だが、敵の飛行場の真上を飛び、滑走路を攻撃するのだからその程度は覚悟の上だ。かつての湾岸戦争でも、圧倒的優勢を誇っていた多国籍軍にあって低空対地攻撃を行った機体の損失は多かった。
小川のカーブが迫る。が、飛行ルートは小川を外れる。僅かなピッチアップで陸地の上に舞い戻り直進。広がる農地を眼下に高速で飛行、農道を走るトラクターの上を飛び抜け、その衝撃に農夫は帽子を飛ばしながらトラクターから転げ落ちた。
目標まであと40秒、次の防風林を目印として20秒後に右旋回。そのあとはエンジン全開で滑走路の真上に侵入し、吊るした全弾ばら撒いて遁走と言った具合だ。駐機中の機体や、格納庫の破壊は敵の反撃度合いで臨機応変に判断する。
「右旋回」
操縦桿を倒して引き、鋭く機体を右へと振る。背後に続く二機のクフィルも同タイミングで右旋回し、ミラージュF1の後ろにぴたりと着け、三機一列で攻撃態勢に入る。兵装を選択し爆撃体勢に入る。
吊るした滑走路破壊爆弾は各機六発、総延長1500mの滑走路に対し、500m毎にばら撒けば滑走路を完全破壊できる計算である。当然計算通りに全て上手く行くわけではないが、それでも飛行場の機能を奪うには充分過ぎる投弾量だろう。
野戦飛行場は敵の工兵隊によって平坦な地形を作り出して建設された関係上、その端は本来の地上より少し盛り上がっている。ヨーコ達が侵入する方位からでは、現在の高度は滑走路の路面とぴったり一致し、そのままでは地面にキスをする羽目になるので攻撃前に機首上げの必要がある。
爆撃自体も最低限度の投弾高度が必須であり、侵入前に高度を上げ、水平に戻してから爆撃と言う工程を経るため、敵の対空砲火に対して無防備な姿を晒してしまう。
「ポップアップ」
操縦桿を引き、一気に機首を上げる。眼前に迫っていた地平が瞬時に空色に切り替わり、急上昇による負荷が一瞬視界の端を暗転させる。と同時に、敵のレーダー波を探知した警報装置がけたたましく鳴り響く。そしてまるでSF映画のレーザーの様に赤い光を曳き、撃ち上げられる対空砲弾がキャノピーの外を流れていった。
最適投下高度約76m、操縦桿を倒して機体を逆さに。ポップアップと同じ要領で機体を水平に戻す。一瞬頭上に見えた敵飛行場には、第一波の迎撃に出た敵機が補給を済ませるべく駐機しており、滑走路上には先程の砲艦からの通報を受けて緊急離陸しようとしている機体が居た。そして今まさに、一機が滑走路より飛び立っている。
水平に戻った機体をまっすぐ、上下の回避機動すら無しに飛行させる危険性は例えるならば自身が対空射撃訓練の訓練標的になった様な物だと言えば分かりやすいだろう。ジェット機と言えど一定高度一定速度、直線機動で飛行していれば目視照準の対空機銃相手でも良いカモである。端から端まで飛び抜けるのには十秒もかからない。それでもだ。
「投下、投下、投下」
投下ボタンを押し込み、腹に抱えた六発すべてを滑走路上にばら撒く。一発ずつ一定間隔、規則的に投下されていく細長いこの爆弾は、投下と同時に展開されるパラシュートで減速し、弾頭先端が斜め下方を向くと同時に弾体最後部のロケットモーターが点火、急加速して滑走路に突入する仕組みだ。
ロケットモーターに点火したデュランダルが滑走路を貫き、ほぼ同時に炸裂し滑走路を端から端まで耕した。通常の投下型爆弾と違い、滑走路表面で炸裂するのではなく地中から炸裂する事によって路面を捲れ上げさせ、大きなクレーターを形成する事で滑走路の補修作業を困難にさせるのがこの兵器の目的だ。
地中からの炸裂で滑走路のコンクリートが舞い上がり、路上の機体は直撃こそ受けなかったものの破片と炸裂の衝撃でひどく損傷し、離陸中だった機体も目の前に突如形成されたクレーターに突っ込み、その場で大破した。
巻き上げられるコンクリートに立ち上る土煙。爆撃は成功した。だがヨーコは違和感を覚える。自分が投下した数と爆発の数が合わない。ヨーコは咄嗟にスティックを倒して機体を逆さにし、背面飛行に移る。
「ヴィクセンよりダイヤ、見えている?」
《見えてる。察しの通り二発残ってるぞ》
「ああ、もう」
全弾投下したはずのデュランダルが懸架装置のトラブルか二発だけ落ちずに残っていた。ありがちだが厄介なトラブルにヨーコは溜息をつきつつ、機体を水平に戻しスロットルを押し込む。
スイッチを押し込みつつ速度が乗った所で、ヨーコは機を勢いよく上昇させながらバレルロール、機体の腹側を旋回の外側に向けつつ遠心力を駆使して残った二発を振り落とそうと試みた。
機を大きく筒の内径を添うようにロールさせ、背面から戻る途上で振動と共に機体が若干軽くなる。機を水平に戻したヨーコはキャノピーの外を見やると、回転しながら地面に落着する二発の爆弾を確認した。
《外れたぞ》
「ええ、確認したわ」
トラブル解消も束の間、今度はRWRがけたたましい地上からのレーダー照射を警告する。いまだヨーコ達は敵の防空網の只中に居り、奇襲に成功した滑走路の上では軽微な迎撃だったが、今度はしっかり送り狼がやってくる。
「レーダー警報、回避機動」
即座に機体を捻り、旋回しながら野戦飛行場を見やれば、なおも撃ち上がる曳光弾に交じって白く細長い煙が幾つも撃ち上がるのを捉えた。それは最後尾、ダイヤ2のクフィルに対して喰らい付こうとしていた。
《ダイヤ2、ミサイル、ミサイル!》
《くそ、回避する!》
ダイヤ2はカウンターメジャーを放出しながら機体を急旋回させ、迫るミサイルと直角になるよう機体を振った。一発、二発と白煙がクフィルの機体後方を流れていき、回避に成功する。
《おい、こりゃさっさとトンズラこいた方が良いんじゃねえか》
《バカヤロ、ここで稼がにゃ危険犯した意味が無かろうが。もう一回ぐらい行くぞダイヤ1》
《一回だけだぞ。墜ちたらそれどころじゃねえからな。おいヴィクセン、お前は》
「仕方ないから付き合ってあげるわ」
ヨーコは兵装を翼下のS-13ロケットに切り替え、離脱方向より反転させて前線飛行場への攻撃態勢を取る。S-13ロケットは本来MiG-27やSu-25など東側機が搭載する兵装だが、昨今は顧客の様々なニーズによりサードパーティ製の部品や機材で簡単にそういった兵装を使用できるようになっていた。
「露払いはしてあげるから、好きなだけ稼ぎなさい」
《へ、そいつはありがてえ》
先行して仕掛けるヨーコ機目掛け、対空機銃とミサイルが撃ち上げられる。機体をバレルロールさせながらチャフ・フレアをばら撒き、機体に取り付けられたIRジャマーの効果も相まってミサイルは回避できた。
HUDの照準に稼働中の9K33対空ミサイルを捉え二発ロケットを発射、直撃こそしなかったが122㎜ロケット弾の至近炸裂による衝撃は凄まじく、衝撃波と爆風、破片が車体とレーダー、発射機をずたずたに引き裂き、9K33はその機能を停止した。
その上を飛び抜け、まさにヨーコに対して照準しようとする23㎜連装機関砲に照準、ロケットを斉射する。続けざまに数発ロケットを斉射し駐機場脇の対空陣地を沈黙させ、飛行場の端に据えられたレーダー設備にも一瞬の航過の間に機関砲のバースト射撃を浴びせ破壊してやった。
《そら行けぇ!!》
ヨーコに一拍遅れて突入したダイヤ2は駐機場に奇麗に並べられた敵機の群れに対しCBU-100クラスター爆弾を四発投下する。連続投下されたディスペンサーが分解し、内部から無数の子爆弾が空中にばら撒かれ、駐機場に雨の様に降り注いだ。
小爆発の嵐が駐機場を端から端まで撫でつけ、機体もろとも効果範囲内の人員を殺傷する。更に給油、弾薬搭載作業中であった事もあり、燃料や爆弾・ミサイルに誘爆、駐機場では投下した爆弾の効果以上の爆発が発生し、その被害は壊滅的な物となっていた。
《やったぜどんなもんだい、ざっと六千ドルは稼いだぞ》
《バカ言うな、行って三千ってところだろ。……ダイヤ2、ミサイルだ!!》
《うぉ、クソ!!》
飛行場上空をすり抜けていったダイヤ2のクフィル目掛け、対空要員の携行ミサイルが発射される。ダイヤ2は回避機動を取りつつフレアを放出、しかし反応が遅れたうえに低空であったため、飛来したミサイルは至近距離で炸裂した。
衝撃が襲い、無数の破片が期待を貫く音がコクピットに響く。計器盤の警告灯が瞬き、警報ががなり声をあげる。ロドリゴは暴れる操縦桿を制御し、乱れる機の姿勢を立て直す。携行ミサイルの炸薬量が少なかったのが幸いし、燃料やエンジンに火災は無く、空中で爆発する恐れはなかった。
しかし至近距離での炸裂とあって垂直尾翼と主翼の損傷は無視できない物で、特に垂直尾翼は半分ほどもぎ取られており、主翼も穴だらけであった。
《くそ、やられた。誰か損傷を確認してくれ》
《ヒドいな、垂直尾翼が吹っ飛んでる》
炸裂と損傷したダイヤ2のクフィルを確認した地上の兵士が、とどめを刺そうとミサイルを構える。が、その兵士と周囲をヨーコ機の30㎜に掃射され阻止される。撃ち漏らした銃座がなおもパラパラと対空射撃をしてくるが、ここが潮時と三機は距離を取る。
「ダイヤ1、ダイヤ2をエスコートして離脱なさいな」
《そうさせてもらう。お前はどうするんだ》
「ロケットが数発残っているわ。向こうもまだやってるみたいだし、もう少しだけ飛んでから戻るわ。ヤバかったら呼びなさい」
《欲をかいて墜ちるなよ》
「当然」と返し、ヨーコは対空砲の弾幕が撃ち上がる浮桟橋の空域へと機首を向ける。被弾したダイヤ2は余った兵装を空中投棄し、可能な限り機体を軽くしダイヤ1を伴って作戦空域を離脱していった。
地上では攻撃を免れた管制塔の要員が無線機を引っ掴み、眼前に広がる惨状に愕然としつつも救援要請を叫んでいた。
《こちら前線飛行場A22管制、防空指揮所へ。敵の爆撃により飛行場は壊滅。滑走路と航空機に甚大な損害を受けた、此方からの迎撃機派出は不可能。他戦区からの増援を求む》
浮桟橋を攻撃に向かった編隊は対空陣地から撃ち上げられる猛烈な対空砲火に難儀していた。旧式の100㎜高射砲だが、統制の取れた射撃によって濃密な弾幕が形成されており、攻撃隊の突入針路を適切に妨害していた。
《なんて対空砲火だ、タマを吹き飛ばされるぞ》
《この中に突っ込むのか、正気じゃないぞ》
《ビビッてタマ落とすより吹っ飛ばされた方が話のネタになるってもんだ、突っ込むぞ!》
亜音速機のA-7EとA-4Nの混成四編隊が敵の射撃管制レーダーを妨害する為、チャフを撒きながら対空砲弾幕に突入する。まるで黒い雲のようになっている弾幕に突入した機体の外板を炸裂した弾片が叩きつける。
亜音速機とは言え緩降下で速度を乗せたジェット機は十秒もしないうちに弾幕を抜ける。が、無理に弾幕を突っ切ったせいか二機ほど被弾し黒煙を噴いていた。
《畜生、喰らっちまった》
《ばら撒いたらサッサかトンズラ扱こうぜ》
《投下、投下!!》
四機の攻撃機はそれぞれ浮桟橋と川の両岸に屯するトラックや物資に吊るした爆弾を全てばら撒いた。高抵抗爆弾は投下と同時に尾部のフィンを展開し減速しながら着弾、数発の直撃を受けた浮桟橋は水飛沫と共に川底に没する。両岸の物資集積場も爆撃によって誘爆、大爆発を起こした。
しかし敵地上部隊もやられてばかりではない。反撃に射出された対空ミサイルが損傷機の背後に喰らい付く。
《畜生、ミサイルだ!!》
《くそ、ロックされ──》
離脱を図るA-4Nが被弾、主翼より後ろをもぎ取られ、機首部分がきりもみしながら墜ちていく。パイロットは咄嗟に射出レバーを引いてベイルアウト、空中にパラシュートが展開された。さらにもう一機の損傷機は被弾によるエンジン不調により速力が低下、自走対空砲の射撃によってとどめを刺され撃墜されてしまう。
《畜生、コナーとダグがやられちまった》
A-7Eのパイロットは墜落した味方機の黒煙と、もう一つの浮桟橋が破壊された黒煙を視認する。なおも対空砲火は空中に黒い雲を作り続け、ミサイルの白煙が地上から撃ち上がり、避ける為に友軍がばら撒いたフレアの火球が多数舞っている。
《あっちも派手にやってるな……うお!!》
レーダー警報とミサイル警報、そして対空機銃の曳光弾。砲弾が主翼を貫き警告灯が瞬く。慌てて回避機動を取りつつ高度を下げて離脱にかかるが、対空砲弾幕を迂回しようとしたその方向は敵の仕掛けた罠だった。
回避してくるA-7Eを待ち構えるように布陣していた二輌の自走対空砲がその四つの砲口を指向し鎌首をもたげる。瞬間、横から飛来したロケットの斉射が並んで布陣する自走対空砲をひと撫でし、一輌は122㎜の至近炸裂で蜂の巣にされ、もう一輌は直撃を受け搭載弾薬ごと吹き飛んだ。
《ヴィクセンか! 助かったぞ》
ロケットを斉射したのは飛行場の爆撃から転進してきたヨーコだった。ヨーコはミラージュをコルセアⅡに横付けすると、外から見て損傷が問題ない事を伝えつつ離脱方向を指し示した。
《お人好しは長生きできねえぞ。だが助かった。帰ったら奢るぞ》
「お酒は飲まないから、そのうち精神的にお返し頂くわ」
ヨーコは機首を翻し、高度を上げて次の獲物を探しに向かう。周囲の状況と無線通信を鑑みるに、爆撃作戦そのものは成功しているように思えた。飛行場は壊滅、浮桟橋も二つ破壊済み。敵の迎撃は地上からの対空砲火とミサイルのみで、対地攻撃に向かない戦闘機組は暇そうに飛びながら時折目についたトラックに機銃掃射を浴びせている。
その時だった。空中管制機からの一報が飛び込んできたのは。
《空中管制機ラウンドテーブルより各機へ。方位194、高度12000ft、敵の増援だ。機数六》
《押っ取り刀で迎撃機がお出ましか》
《やっとで仕事が回って来たぜ》
亜音速の攻撃機や爆装を優先していた機体は敵機との交戦を避けるべく、渋々と言った様子で地上攻撃を中止し、残った爆弾やロケットを適当な目標にばら撒いて撤収を開始する。一方で燃料と弾薬が有り余っている戦闘機乗り達は勇んで敵機が繰る方向へ転身、迎撃態勢に入った。
ヨーコはレーダーと機外の様子とを見て、迎撃に向かう機を確かめる。自分を抜いて4機。自分の近くにMiG-23MLDが二機、やや離れた左前方にF-5Eと近代化改修されたF-4Eの二機。
ファントムはスパローを吊るしているようだがF-5Eは近距離用ミサイルしか搭載していないようだ。となれば、会敵時の中距離ミサイルのやり取りはヨーコのミラージュとファントム、そして隣にいるMiG-23で対応するしかなく、敵機の編成次第だが些か手数不足と言える。
だが、形勢不利な戦局はこれまで幾らでもあった。レーダー性能、機体性能、電子支援その他諸々で勝る相手に挑んで手傷を負わせてなんとか逃げ帰った経験もある。この程度の数的不利など、気にするまでもない。
ヨーコは迂回上昇するべく離れていくMiG-23を横目に空のロケットポッドとデュランダルの懸架装置を投棄、スロットルを押し込んでアフターバーナーに点火する。空対空兵装は翼下のシュペル530Fと翼端のR550の四発のみであったが、ヨーコはレーダーの走査モードを切り替え、機先を制すべく接近する機影に対してロックオンを試みるのだった。
「ヴィクセン、交戦」




