4 走馬灯(転生の履歴)
人は死の間際、走馬灯のように過去の出来事を思い出すという。
私も、薄れゆく意識の中、長いようで短い六度の人生を思い出していた。
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1度目の人生は江戸時代。天保の大飢饉の最中、貧しい百姓の家に女子として産まれ、すぐに盥の水に沈められて命を落とした。いわゆる口減らしである。
父は労働力として男児が欲しかったようだ。
「いいか?次も女だったら、またぶっ殺すからな!」
この言葉は呪詛として私の魂に深く刻まれている。
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2度目の人生は第二次大戦の戦時中、母に見殺しにされ3歳で死んだ。
父は既に戦死していて、母は5人の子を独りで育てており私は末子だった。
食料は少なく、兄弟姉妹で奪いあう様に食っていた。
そんなある日、空襲から逃れるために母に手を引かれて走っていた時だった。
「あんたが居るとみんな死ぬんだよ!」
私は迫りくる戦火の中に突き飛ばされ、置いて行かれた。
幼い私だけが足手まといになったのだと思う。
前世と同じく、時代が悪かったとしか言いようがないんだけどね。
私は死の間際、強く願っていたんだ。
『たくさんごはんがたべたい』と…
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3度目の人生は一転、華やかなものだった。
戦後の好景気の中、大阪万博の開催も決まり日本中が沸きに沸いていた良き時代。
不動産王の父とパーマ屋…今で言うカリスマ美容師の母との間に産まれた。
大きなお屋敷に、お世話係として住み込みの家政婦が二人。私はお嬢さまとして何不自由なく暮らしていた。
私が5歳の時、屋敷で事件が起きた。家政婦が共謀して金庫の金を盗んで逃げたのだ。両親にとっては少額だった事と、表に出せない金だったこともあり警察には届けないらしい。
更に間が悪いことに、私が高熱を出して倒れてしまったのだ。
家政婦が居ない中、両親は今夜政財界とのパーティーがあるという。
「こんな時に困ったわねぇ。なるべく早く帰るから、いい子にして待っててね?気持ち悪くなったらここに吐くのよ、いいわね?」
そう言うと、母は枕元に洗面器を置いて出掛けてしまった。
本当は行かないでほしかったけど言えなかったんだ。
時刻は午後5時、しんと静まり返った屋敷はものすごく怖く感じた。何かに連れて行かれそうな、そんな色の夕暮れだった。
頭がズキズキと痛み、寒気がして震えが止まらない。
高熱のせいか頭がぼんやりする。
…うっ…気持ち悪い……
布団から起き上がることができず、洗面器は間に合わなかった。
汚したことを怒られるかな?辛くて心細くて、涙が止まらなくなった。
(くるしいよーだれかたすけて……)
待てども待てども両親は帰って来ない。柱時計の針は頂点を指していた。
体調は悪くなる一方で、息苦しく、もう身体に力が入らなかった。
お手洗いにも行けなかった。
吐しゃ物と汚物にまみれ、朦朧とする意識の中、私は思った。
なんでお父さんとお母さんはかえってこないの?
どうしてわたしはひとりぼっちなの?
ひとりにしないで……
……目が覚めたら別の親の元に産まれていた。
死んだことも覚えていない。多分インフルエンザ脳症とかだったのかな?
物理的に殺されたわけではないけど、心を殺されたと私は思う。
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4度目の人生は、傍から見るときっと酷いものなのだろう。
でも、私は楽しかったと思う。
昭和の一番輝いていた時代、私は14歳まで生きたんだ。
私が産まれた時、父は傍にいなかった。
母は暴力亭主から逃げているときに妊娠に気づいたそうで、出生届は出せなかったんだってさ。
その後、父母の離婚は成立したけど、関わりを絶つため私の事は父に内緒にされて…結局無戸籍のままで育ったんだ。
ホステスとして働く母は人気ナンバーワン。収入は多かった。
学校に行けない私に、欲しいものは何でも買ってくれた。
本、漫画、ゲーム、おもちゃ。テレビは何時間観ても怒られなかった。
でも、いつも家に独りぼっちで寂しかったんだ。
ある日、母の元に若い男が転がり込んできた。
全く働かず、昼間は母とアンアンして、夜は母を店に送った後はダラダラ過ごす。
良くも悪くもそいつは遊びの達人だった。私もいっぱい遊んでもらった。
漫画を一緒に読んで感想交換したり、ファミコンゲームで対戦したり、か●はめ波を打てるか試したりね。
前世と今世、独りぼっちだった私は彼に懐いたんだ。
私は独りじゃない、生きてて良いんだと救われたような気がして…。
そして12の歳、私は大人になった。お赤飯でお祝いするアレである。
その後2年も経つと、ヒモ男との遊びはいつの間にか大人の遊びになっていた。
あっ、引かないで!今では反省してるんだから!
大人の遊びを続けているうちに、私は体調が悪くなった。
アレが止まり吐き気がするようになったんだ。
そう、出来てしまったんだ。赤ちゃんが!
私はそのときまだ14歳、しかも無戸籍。
どうしようと悩んでいるうちに、家が火事になったらしい。
深夜、寝ている間に私は焼け死んだらしい。ヒモ男と一緒に…。
寝ていたせいか、死んだ記憶は無いんだけどね。
これは全部、転生したあとでネットで調べて知ったんだ。
事件記事になってて驚いたよ。「あ、私のことだ」って。
母が放火したんだってさ。死刑判決が出たそうだよ。
遺体の状況や供述内容については触れられていなくて、少しホッとしたんだ…。
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5度目の人生は平成。ノストラダムスの大予言がハズレた年。
DQNな親の元に産まれた私は、僅か半年の命だった。
真夏の暑~い日、親子3人、車でお出かけした先はパチンコ屋。
私はスヤスヤおねむで車に残された。
父母は時間を忘れてフィーバーヒャッハーに夢中だった。
…後はご想像の通りです。
暑くて目が覚めたら車の中。赤ちゃんだから動けない。
泣いても誰も気づかない!
『暑い、熱い!助けて!!』
蒸し焼きってこういう事なのか。バカな親はどうしようもない!
と思いながら死んだんだ。
転生したあとで知ったんだけど、両親は逮捕されたらしい。
その後のパチンコ置き去り事件が厳罰化された元となったそうだ。
でも、未だに毎年のようにあるのが信じられない。多分故意だと思うんだ。
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そして、先程終えた(?)6度目の人生だ。
父は警察官、母は看護師。立派な職業だ。
前世でバカな親はいらないと思ったおかげか、ガチャでまともな親を引き当てたと喜んでいたんだけどなぁ…。
今回が一番のハズレだったのではないかな?
この何とも言えない恐怖と不快感、今思い出してもチビりそうだ。ガクブル……
長いようで短い走馬灯を観ながら、私は死んで行く。
これからまた輪廻の輪に乗って転生してしまうのかな?
もう嫌だよ…
『ほな、こっち来いや~?』
意識が途切れる間際、そんな声が聞こえた気がした……




