3 計画的犯行
グロ注意!切断等、かわいそうな表現があるので閲覧にはご注意ください。
「ヤバい、遅くなっちゃった」
街灯もない山道で、私は自宅に向かって必死に自転車を漕いでいた。
山奥にある自宅は、高校から自転車で1時間、急げば45分の道のりだ。
よくもまあ3年間休まず通ったと、自分を褒めてあげたい。
真っ暗な中、やっと家に着いたが家の電気はついてないようだ。
「ただいまー。お母さーん、いないのー?」
靴を脱ぎながら玄関灯のスイッチを押す。…点かない?
「…停電かな?」
何度押しても点かないので、仕方なくそのまま家に上がると、暗い廊下にうっすらと浮かび上がったのは『飼い猫タマ』の白地に黒のシマシマだ。
頭を中心にして丸くなって寝ている姿は、ニャンモナイトといわれているものだ。
たまらなく可愛いこの姿!可愛いは正義だ!
「うへへ~、タマ~こんなとこで寝てると踏んじゃうぞぉ~」
思わず猫なで声を出しながら抱き上げると、ふにゃふにゃなはずの猫が何故か固くて…?
ゴトンと音を立てて何かが落ちた。
「え?」
暗闇に浮かび上がった落ちたもの、それはタマの生首だった!
「た、タマ?タマーー!いやあーーっ!!」
タマの亡き骸に縋って泣いていると、突然首の後ろに衝撃を感じた。
そして私はそのまま気を失ってしまった。
●●●
『うぅーん?』
気がつくと見知った天井だった。ここは自宅の居間のようだ。
私は猿轡され、手足を縛られていた。怪我は…ないみたい。
でもタマは…!
また泣きそうになったけど、ぐっと耐えた。
縛られているから、今流行りの緊縛強盗か?
あっ、母が信金で大金を下ろしたから!
ならば、騒がなければ殺されない?
それよりも、母は無事なのだろうか?
金目の物を出させるために家主を連れ回すこともあるらしい。心配だ。
私はとりあえず気絶したフリを続け、情報を得ることにした。
居間にはなぜかブルーシートが敷いてあり、私はその上に転がされている。
身動ぎするとガサガサ音がするので居心地が悪い。
耳を澄ますと、風呂場の方から水音がする。
母…じゃないよな?
暫くすると足音が近づき、私の顔の横に荷物を下ろすような音がした。
薄目を開けて見ると、荷物のようなものと目が合った。
カッと見開かれ光を失った瞳。それは見間違うはずもない母の首だ!
胴体と切り離された、母だったモノがそこにあったのだ。
『うっ、うーーーーっ!(お、お母さんっ!)』
私は猿轡のまま声にならない声を上げ犯人を見上げた。
ああ、やっぱり…そういう事か!
強盗なんかじゃない。用意周到な計画殺人だ。
元鑑識課の敏腕刑事。あらゆる犯罪のデータを知る捜査一課長。
鬼のチョーさんこと、父の長谷川十三が嗤いながらそこに立っていた。
今世は、今世だけは、親に殺されることはないと思っていた。
だって、父は犯罪者を取り締まる側なのだから。
でも、今の父の姿は今まで私を殺してきた親達と何ら変わらない、ただの殺人者のそれだ。
壁を背に後退りする私に、父の大きな手が迫る。
首に手をかけられ、徐々にその圧が強くなる。
逃げようともがいたが、父は柔道と剣道の段持ちだ。その腕はびくともしない。
(もう無理だ。殺される…)
私は恐怖と絶望と窒息の苦しさで、じわじわと制服のスカートを濡らしていた。
ここで漸くブルーシートの意味が理解できた。
一点の痕跡も残さず証拠隠滅するためだったのだ。
「クフフフ……」
獲物の醜態を眺めながら父が悪魔のように嗤っている。
その時、さっき暴れたのが功を奏したのか、奇跡的に縛られていた手の拘束が解けた。
私は最期の力を振り絞り、ポケットに入っていたボールペンを取り出して父の顔面に突き刺した。
「うがぁっ!」
それでも父は首を絞める手を離さず圧を強めてきた。
意識が混濁し、命の灯が消えようとしているのがわかる。
だって私は転生のプロだから。
思ったほど力が出せず左頬に浅く斜めの切り傷をつけたに過ぎないけど…。
(お母さん、タマ、一矢報いることが出来たよ…)
私は薄れて行く意識の中、心から望んでいた。
『もう親ガチャなんてしたくない!』と…。
そして、私の6度目の人生はあっけなく幕を閉じたのである。




