24 悪意
●悪人視点
建物の陰からリンカを睨みつける男の名は【ズラートル元男爵】。
その名は初耳であろうか?3年前、大聖女強盗傷害事件を起こし、リンカにヅラをむしり取られた挙句、断罪され男爵位をはく奪・追放された、あの元男爵その人である。
「クソッ!あのガキをぶっ殺すつもりで来たのにっ!なんだこの騒ぎは!近寄ることも出来ないではないかっ!」
「坊っちゃん、やべえですぜ。日を改めた方が良いっす!」
「ぐぬぬ……」
「おや?随分と物騒な話をしていますなぁ?ズラートル元男爵」
突然現れたのは、全身黒ずくめで顔を布で覆った男たちだった。見た限り5人だが、物陰にも何者か潜んでいる気配がする。こちとら優男と下男の二人組だ、到底勝ち目はない。
「き、聞いていたのかっ!た、たのむ見逃してくれっ!」
恥も外聞もなく命乞いだ。まだ死にたくはない!
「うむ、ワタシもね、あの娘に興味があるのだよ。ここはひとつ、取引と行こうじゃないか?」
「は、ははーーっ!」
●リンカ視点
新年の宴は領主様のおかげで大いに盛り上がっていた。
新しく大聖女になったクリスだけでなく、光のギフトをもらった私の元にも、ひっきりなしにお祝いの者がジュースを持って訪れている。
そんな中やって来たのは、立派な身なりのカイゼル髭を蓄えた紳士だった。
「やあやあ、マーサ殿。賑わってるね!」
「これはこれは【ネカラアク子爵】!いつもご寄付をありがとうございます」
「いや、ワタシの町には孤児院がないからな。その代わりと思ってくれ。こちら寄付金と、美味しいジュースだ」
「こちらの御方はね、隣町の町長でネカラアク子爵というのよ。教会に援助をしてくださってるの」
「「は、はじめまして。いつもありがとうございます!」」
院長先生の説明に私とクリスは深々とお辞儀をしてお礼を言った。
「いやいや、かしこまらなくていい。町長としての務めだからな。それより、ジュースで乾杯しようではないか!シスターたちもどうぞこちらへ…」
「「「「「ありがとうございます!」」」」」
多分お高いと思われるジュースが、惜しげもなく教会・孤児院関係者全員に振舞われた。
私はすでにお腹タプタプだったけど、美味しいジュースはあっという間に腹に収まった。
「甘くて美味しいね♪」
「うん!もう一杯もらってもいい?」
アルフも尻尾をブンブン振って大喜びだ。おかわりまでしている。
「おや?そろそろ、陽が落ちるようだね。ワタシはこれで失礼しよう。子供たちも疲れただろう?無理せず休むといい。では、またな!」
「「「「「はい、ありがとうございました!」」」」」
その後、ネカラアク子爵が笑顔で去って行ったのを見届け、宴はお開きになった。
まあ、男たちはまだ飲み歩くようだが、教会の関係者はその場を辞したのだった。
「クリス姉…。私、もう疲れて動けない……」
「あはは、私もだよー」
慣れない場で緊張したせいなのか、ひどくだるくて眠い……。
部屋に辿り着くと、着替えもせずベッドにダイブした。
「…クリス姉、大聖女になっちゃったから、別の街にいっちゃうの?」
「うん、ここから500kmくらい離れてる街なんだって。こうして一緒に寝るのもあと何回か……」
「…………」
「あれ?寝ちゃった…?おやすみ、リンカ……」
「ん……」
眠くて眠くて、曖昧な返事をした…ような気がする。
私は、まるで泥沼に引きずり込まれるように眠りに落ちていた。
●●●
(ぶるっ……)
身震いとともに目が覚めた。体感では2~3時間寝ていたか?
頭がガンガンするので、まず『痛いの痛いの飛んでいけ』を唱えた。
重だるい体を気合で起こし、急いで向かった先はトイレだ。
ジュースの飲みすぎだったからね。間に合った自分を褒めてあげたい!
……それにしても静かだ。まだ大人は起きている時間のはずなんだけどな?
不思議に思い事務所を覗くと、院長と副院長が机に突っ伏していた。
寝ているだけのようだが、ゆすっても起きない。
アルフの部屋も覗いてみた。死んだように眠っていて、やはりゆすっても起きないようだ。
何かがおかしい。頭もすっきりしないし…ナニコレ?
怖くなってクリスの待つ部屋に戻ると、中には黒ずくめの服を着て顔を隠した二人組がいた。
「あっ、坊っちゃん!居ましたぜ!」
「このガキ!なぜ起きてる?薬が効かなかったのかっっ!」
薬?そうか、眠り薬か!
もしかしたら、不老不死の私には薬は効きづらかったのかもしれない。
「どうします?坊っちゃん」
「捕まえろ!傷はつけるなよ、大事な商品なんだからなっ!」
「いやーっ!こないでーー!」
私は手あたり次第に物を投げて抵抗した。
(いざとなったら∞の力で殴ってやるんだからね!)
しかし、抵抗むなしく男は最終手段に出た!
「仕方ない、あの方に頂いたアレを使うぞ!むんっ!!」
男が床に向かって何かを投げると、途端に白煙が上がった。
いつの間にか男たちは防毒マスクをつけている!
「っ!しまった、これは催眠ガスっ……」
気づいた時にはすでに遅く、私は白煙に包まれて意識を失っていた。




