6話 ラシエルの本音
「シリエル。ちょっと良いかしら」
おでん事件の次の日、ラシエルは私に声をかけてきた。
くそ、昨日の話は内密じゃ無かったのかよ。裏切りやがって…。
「……何の様だ?」
すると、何故かラシエルは耳のそばに口を持ってきて小声で言ってきた。
「ここじゃ拙い話だから、ちょっと来なさい」
「うん?お前は昨日の事をバラす気なんじゃ無いのか?」
「そんな訳ないでしょ?だから、少し私に付き合いなさい。誰も居ないとこで話すわよ」
「…分かった」
ラシエルに連れられて、私はその場を後にした。
皆はその光景を見て驚いている。まあ、そうだろうな。
今まで一緒に行動をする事は無かったからな。
……。
ラシエルの自室に着いた。本当に久しぶりに入るなここには。
「ここなら大丈夫ね。それで、シリエルに聞きたいんだけど」
「ああ、下界の話だな?」
「ええ、そうよ。というか、貴方はいつから下界に行っていたのよ?」
「……この前からだ。大体2、3ヶ月だな」
「結構、エンジョイしてるじゃない。ていうか、何故そんなに白い翼のままなの?」
「それには、まあ…訳があってな、そのうち話そう。しかし、お前も下界に行っていたのか?」
「そうね、まあ、20年くらいになるわね」
「随分と行ってるな、おい」
「ちょくちょく降りていたわよ?降りる頻度が高くなってからだとそれくらい」
「済ました顔で何をしゃあしゃあと言ってるんだよ…」
「貴方も同じ立場だってこと忘れてない?」
「……そうでしたね」
まさか、ラシエルが下界上級者だとは思いもよらなかった。
確かに、ラシエルが黒い翼になったと聞いた事があったが、それとこれが結びつかなかった。
何をやってるんだ、上位天使のくせに。私は最近までは下界に行かなかったんだからな。
少しは私を見習うべきだろ。その差はデカいぞ、ラシエル。
「まったく、ラシエルはしょうがない奴だな」
「……何マウントとっているのよ。ていうか、その白い翼のままなのは何?下界に行っても黒に染まらないなんてムカつく」
「ああ、これか。まあ、実は私も黒く染まった。だが、しかしある解決方法を思いついたんだよ」
「えっ?黒に染まった…の?…なら良いわ、私だけじゃ無かったのね。それでその方法って何?」
「ふふん、心して聞けよ!!」
「なんか態度が大きくてムカつくけど、まあ良いわ。勿体ぶらずに早く言いなさい」
「白いペンキで白く染めたのだ!!」
「………えっ?」
「だから、白ペンキで黒くなった翼を白く染め直したんだよ。ふふん」
私の素晴らしい考えを披露すると驚いたのか、ラシエルは目を見開いて口を開けていた。
まあ、そうだろうな。私も思いついた時に自分が恐ろしくなったものだ。あまりにも冴えすぎて。
ふふん、尊敬したか?ならこれからはもっと態度を改めても良いのだぞ?
「えっ?ペンキで白に塗っただけ…なの?」
「そうだ!素晴らしい考えだろう?」
「………まさか、天使でそんな事をする奴がいるとは思わなかったわ」
「誰も思いつかない考えという訳だな。そこまで褒められると照れるな」
「……いや、褒めてないわよ」
「えっ?なんか言ったか?」
「ううん、何でも無い。あの、それで今までバレなかったの?」
「ああ、いつ見ても綺麗な白い翼ですねとしか言われてないぞ。ペンキを取れば多少は真っ黒だがな」
「……色々と衝撃すぎてもう言葉も出ないわよ」
ラシエルは尊敬の眼差しで私を見ていた。ああ、少し気持ちが良いな。
それに、なんだか、ラシエルとこんなに話したのは久しぶりだ。
昔はそこそこ仲が良かったのにいつの間にかまったく話さなくなったからな。
こう、話をすると嬉しさが舞い上がってくるな。
「はぁ…何で私こんな奴に嫉妬していたんだろう」
「え?急にどうしたんだ?」
「私は下界の生活に触れて、その楽しさが忘れられなくて、何度も翼が黒くなった事に悩んできたの。そんな時に貴方の翼の白さを見ていたら、私がとても情けない存在に見えてしまってね。それで貴方に八つ当たりしてたのよ」
「ふむ、まあ、分からぬ事もない。私も翼が黒くなった時は焦ったからな」
「辛く当たって悪かったわね、シリエル」
「いや、良いさ。そんな事よりもまたラシエルとこうして話せる仲になったのが嬉しいからな」
「……えっ?」
「私だって寂しかったんだぞ、昔は結構仲が良かったのに何だか最近すれ違いばかりで。なあ、昔の様に仲直りしないか?」
「……はぁ。身構えていた私が馬鹿みたい。また昔みたいに話しましょ、シリエル」
「ああ!改めてよろしく頼むぞ、ラシエル」
「ええ、色々ごめんね、シリエル」
聞いてくれ!今日は良い日だ!あのラシエルと和解出来たぞ。
これも下界様様だな、寧ろ何で黒く染まったら駄目なのか分からなくなってきたぞ。
白い翼の間はラシエルと仲良くなれる素振りさえ無かったのにな。
「ところで、シリエル。貴方下界に行く時はこの姿で行ってたの?」
「ああ、この服しか天界では着ないだろう?何枚も替えはあるけど、全部同じデザインだし」
「……貴方、下界に降りた時にその辺にいる人の思考を読んだ事はないの?」
「なんか、変な服着けてるなとは思われていたが、特に気にしなかったぞ」
「……決めた。シリエル、明日私に付き合いなさい。貴方の服を買ってあげるから」
「えっ?急にどうしたんだ?」
「郷に入っては郷に従えってあるの、日本って国には。ルールは守りなさい」
「日本って何だ?」
「……そこからなのね。まあ良いわ、面倒見てあげるわよ」
……なんか、分からないが明日、ラシエルと下界に行くことになった。




