28/32
28
晩夏から初秋へ。小石川の空には、渡り鳥の群れが北へと向かう姿が見えるようになっていた。
かつての藍風堂があった場所には、新しい看板が掲げられていた。「藍姉妹」――それは、鈴とお琴が共に歩む新たな一歩の象徴だった。
店内では、二人の技術が融合した染物が並んでいた。お琴の「波」と鈴の「風」。二つの要素が合わさることで、これまでにない表現が生まれていた。
「鈴、この染料はどう?新しく調合してみたの」
お琴が見せた藍は、通常より深みのある青だった。
「素晴らしいわ、お琴。この青なら、もっと立体的な風の表現ができるわ」
二人は互いの技術を高め合いながら、日々新しい挑戦を続けていた。茜も二人の仕事を熱心に手伝い、少しずつ染物の技術を吸収していった。
店の評判は日に日に高まり、江戸中の人々が「藍姉妹」の名を知るようになった。大奥からの注文も増え、ついには将軍吉宗自らの御用を賜るまでになった。
「お母様、叔母様、見てください!将軍様からのご注文です!」
茜が興奮して駆け込んできた。手紙には、将軍吉宗自らの印が押されていた。
お琴は鈴の手を取った。
「すべてあなたのおかげよ」
鈴は首を横に振った。
「違うわ。これは私たち二人の……いいえ、三人の力よ」
茜も加わり、三人は手を重ね合った。




