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【回想】
元禄十二年、春。鈴が十二歳、お琴が十八歳の頃。二人は父・藍右衛門の仕事場で、染め物の手ほどきを受けていた。
「鈴、お前の染めた布は風が見える。お琴、お前の染めた布は波が見える。二人とも才能がある」
父の褒め言葉に、姉妹は嬉しそうに顔を見合わせた。
「お父様、私、もっと上手くなります!」
鈴の元気な声に、お琴も静かに頷いた。
「私も、もっと精進します」
藍右衛門は満足そうに頷いた。
「藍風堂は、お前たち姉妹が継いでいくのだ。お琴の『波』と鈴の『風』。二つが合わさって、真の『藍の風』となる」
その日、姉妹は父の言葉を胸に刻み、互いに励まし合った。
「お姉ちゃん、私たち、いつまでも一緒に染め物をしようね」
鈴の無邪気な言葉に、お琴は優しく微笑んだ。
「ええ、もちろんよ。私たちは姉妹だもの」
二人は小指を絡ませ、約束を交わした。
しかし、その約束は守られなかった。鈴が家を出たとき、お琴は弟子と二人、藍の葉を刻んでいた。
「お姉ちゃん、さようなら」
玄関に立つ鈴に、お琴は振り向きもしなかった。ただ、手を止め、背中を硬直させただけだった。
鈴は悲しげに微笑み、静かに戸を閉めた。その音を聞いたとき、お琴の頬を一筋の涙が伝った。
【回想終了】




