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享保五年の夏、鈴の新しい仕事場は活気に満ちていた。火事の後、彼女の安否を心配した常連客たちが次々と訪れ、注文を入れていった。
「鈴さん、無事で本当に良かった。うちの店の手ぬぐいも、また頼むよ」
小間物屋の主人は、鈴の染めた手ぬぐいが店の看板商品だと言っていた。
「ありがとうございます。必ず、以前よりも美しいものをお届けします」
鈴は自信を持って答えた。火事という試練を乗り越え、彼女の心は以前よりも強くなっていた。
新しい仕事場では、より大きな布も扱えるようになった。鈴は長襦袢や小さな着物など、より高価な品物も染められるようになっていった。
「お母様の染める布は、とても美しいです」
仕事を手伝いながら、茜がそう言った。
鈴の染める布は独特の美しさを持ち、見る者の心を捉えた。深い藍色の中に、風のように流れる模様。それは彼女の魂の表現だった。
「ありがとう、茜。お母さんはね、布に風を染めているんだよ」
「風を染める?」
「そう。目に見えない風を、色と形で表現するの。それが私の仕事よ」
茜は母の言葉を不思議そうに聞いていたが、鈴の染める布を見ると、確かにそこに風が宿っているように感じられた。




