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性能のいい炊飯器でふっくら炊いたごはんと、インスタントのみそ汁と、レモン汁なし揚げたてから揚げとを食べて、涼一はひと息ついた。
「ごちそうさまでした」
足をくずしたすわりのまま、たたみに片手だけをついて土屋におじぎをする。
「いえいえ。どういたしまして」
土屋がちゃぶ台に手のひらをついておじぎを返した。
「けっこうな御点前で」
「おそまつさまです」
なんか知らんが二人でおじぎし合う。
「片づけくらいやるけど」
「いいよ。そのあいだ、なにしてていいか分かんないし」
土屋がそう返す。
「俺も何してていいか分かんねえんだけど」
涼一は室内を見回した。
テレビがないことにいまごろ気づく。まあ自分のアパートの部屋にもないのだが。
「ユーチューブ見てるくらいしかねえ……」
「寝てたら?」
「……そのままお泊まりしちまったらアホじゃん」
涼一は顔をしかめた。
フッと目のまえが暗くなる。
「えっと」
「何したの。また来た?」
土屋が問う。
「また目隠しきた」
涼一はあわてずさわがず口を開いた。
「つかまえた」
しばらくして、眉をひそめる。
こんどは目隠しはとれなかった。
背後でタタタタタッと走り回る足音が聞こえる。
「どしたの」
「目隠しとれねえ」
土屋が沈黙する。
衣ずれの音がした。
ななめまえ。膝を突き合わせるあたりに土屋がすわった気配がする。
「つかまえた――つかまえた」
なんども言うが、まっ暗なままだ。
「ともかく連泊決定」
土屋がなぜかパチパチパチと拍手する。
「おいまじか」
さすがに絶望して、涼一はたたみに手をついてうなだれた。
「……なにこれ。さすがに一生このままじゃねえよな」
涼一はかなり悲観的になりつぶやいた。
「一生なんてさせないけど」
土屋が言う。目のあたりをのぞきこむような気配がする。
「一回 “つかまえた” で解除できるようになったんだから、たぶん方向性というか、間違ってはいないんじゃないかな。――何かあるんでしょ。ゲームならつぎのステージとか」
「ステージとか歌手に昇らせとけ。俺はただの営業職だ」
「鏡谷くん、もしかして混乱してる?」
土屋がポンポンと軽く肩をたたく。
いつもこんなふうにスキンシップとるやつつじゃないんだけどなと思う。
位置が分かりやすいように気を使ってくれてるのか。
「よしよし」
土屋が頭をなでる。
「……何やってる」
「さやりんが、よしよしするの? とか聞いてたからさ。いっぺんやってみようかと思って」
「……やめろ。髪がくずれる」
涼一は眉間にしわをよせた。
「いいじゃん。どうせこのあと風呂入って寝るだけ……」
二人で沈黙する。
「……自分で洗うんだっけ」
「……自分で洗う」
涼一は顔をきつくしかめた。
「んじゃ、そこはよろしくってことで」
「おう」
涼一はそう返事をした。
「から揚げとレモンで思いだした。マザーグースで『オレンジとレモン』ってあるじゃん」
風呂の湯かげんを見にいった土屋が、こちらに戻る。
部屋のたたみを踏みしめる音がした。
「知んね」
涼一は答えた。
あいかわらず目隠しされて視界はまっくらだ。
「教会の鐘同士が金返せだの、おまえにいくら貸しただの延々と言い合ってるんだけど」
「……どこの国の教会だよ。えげつねえな」
涼一は眉をよせた。
「ところがそのほのぼのした言い合いが、最後の数行になると唐突に “おまえの首を切りに首切り役人が来たぞ” ってなって終わってんの」
涼一は顔をゆがませた。
「ほのぼのしてるか? その言い合い」
「鏡谷くんの気になるところは、そこかあ」
土屋が少々困惑したような声を出す。
「金返さんやつなんて首切られてもしゃあないだろ」
「鏡谷くんに金借りたらちゃんと返すようにするわ、俺」
土屋がそう返す。
「言ってみれば、除夜の鐘に “金返せ” 言われてるようなもんか」
「んーまあ、日本的に言うとそんな感じ?」
二人でしばらく沈黙する。
「んで、それがなに」
「いやただ語呂が似てるから思いだしただけ」
土屋がこちらに歩みよる。
「まっいいや。風呂入ろ、鏡谷くん。手伝ったげるから」
土屋が前方に座り、襟元を両手でごそごそと触る。こちらのシャツのボタンを外そうとしてるらしい。
「えっ、何で脱がすとこから?!」
「え? 一人で脱げる?」
土屋が問う。
涼一は、シャツの襟元を土屋から引ったくるようにしてつかんだ。
「……意地でも自分で脱ぐ」
「うん、じゃあ脱いで」
土屋がそう応じた。




