まᑐჳゎぬぉ団子 一
会社の社員用駐車場。
昼間なので停められている車は内勤の社員のものが多い。
区画線にそって乗用車を停めると、土屋がおもむろにカバンからスマホをとりだした。
電話帳を表示させてタップする。
「──あ、さやりん?」
「何であれにかけんの……」
助手席で涼一は顔をしかめた。
自身のスマホをカバンからとりだし、時間を見る。
平日の午前十時すぎ。
お団子も、何でこんな時間にふつうに通話に出れんだよと顔をしかめる。
「いま? りょんりょんを帰社するから送ったとこ。――そっちは授業中? 通話だいじょうぶ?」
「授業中だけどだいじょうぶだよー」という声がもれ聞こえる。
いつもいつも、いったいどんな授業やっとんじゃと不思議になる。
「ちょっと調べてほしいんだけど。──いや、そんなに急がないけど」
「急がせろ」
涼一はサイドウィンドウの外をながめながら口をはさんだ。
「ホテル? 俺らで? そんなとこ行ってないよ、出張じゃないし。──ああ、何でりょんりょん乗せてんのかって」
「その呼びかたやめろ」
涼一は眉をよせた。
「鏡谷くん、きのうから怪異がらみでときどき視界ゼロになることあっちゃって。運転ヤバいから乗せてんの──え?」
土屋がこちらを見た。
「りょんりょん一人暮らしって聞いてたけどだいじょうぶ? って聞かれたんだけど。俺のうちにいるって言ってもいい?」
「いいんでねえの。そう言っといたほうが、よけいなおせっかいされなくてすむだろ」
「そうかもね」
軽く返事をして、土屋がふたたびスマホを耳にあてる。
「──危ないからゆうべ俺ん家に泊まった。解決まで連泊予定」
土屋がそう告げる。
「連泊なの?」
涼一は顔をしかめた。
「連泊しなよ。見えなくなった瞬間がヤバいし、怪異がどう変化するか分からんし」
スマホから、何かガシャンガシャンというさわがしい音と、みじかい悲鳴のようなものが聞こえる。
つづけて少しおとなの女性のような声も聞こえたが、先生だろうか。
「何したんだろ」
土屋がスピーカー機能のアイコンをタップする。
「なにこっちにまで聞かせる気になってんだ。俺はなんも話さねえからな」
涼一は顔をしかめた。
ガタガタッという音につづいて、女子大生のようなテンパった声が聞こえる。
「夏目さんっ! 授業中になにやって──ぐしゅっ。やややややめなさいっ! ぐす、ぐすん」
「──まーって、むつみっち。泣かないで、いやがらせとかじゃないからっ! いま知ってるカップルが! ほんと、授業ボイコットとかのいやがらせじゃないからっ、ねね、むつみっち!」
「──佐藤先生と呼びなさいって言ってるでしょおおお!」
土屋が、困惑した顔をこちらに向ける。
「……俺に意見求められても知るかよ」
涼一も鼻白んだ。
「あれじゃねえの? まえにお団子が言ってた女子大生上がりのむつみっち先生」
「ああ、生徒と歳が近いだけにオモチャにされてるみたいな」
土屋がなんとなく気の毒そうにスマホ画面を見る。
ややして、スマホの画面をこちらに向けた。
「何かかわいそうだから、鏡谷くんなだめて差し上げて」
「なんで俺」
涼一は眉をよせた。
「鏡谷くんのほうが、営業モードになると口がうまい」
「さいきんまで彼女いた土屋さんにはかないませんけどな」
涼一は口元を引きつらせた。
とはいえ、きのうから全面的に世話になっている身だ。これくらいの用事は引き受けてやろう。
スマホをこっちによこせとゼスチャーする。
土屋がスマホを手渡した。
「おいお団子、センセと代われ」
涼一はそう告げた。
「──えっ、なになに? りょんりょん、ダメ。横に土屋さんいるんでしょ? むつみっちがかわいいからって浮気はダメだからねっ」
「わけ分かんねえこと言ってないで代われ。今回だけはおまえの調査書の内容が悪くならんように口添えしてやる。このほかの素行は知らんけどな」
「──りょんりょん!」
「代われ」
爽花が言いつのったが、強引にさえぎった。
通話口の向こうでブツブツ言いながら教師と代わる。
「──はい、あの佐藤です」
おとなしそうな声が通話口から聞こえる。
なるほど気が弱そうなお嬢さまタイプって感じだと涼一は思った。




