₹ょ੭ੇ ₺ぉ憑かૠरまڃತ 二
社員食堂廊下の自販機コーナー。
昼をすこしすぎているので、利用している社員は少なく静かだ。
「よ」
缶コーヒーでも飲もうかと通りかかると、ベンチソファに座った土屋が声をかけてきた。
「お」
そうみじかく返す。
奥の窓からやわらかく射す午後の陽光が気持ちいい。
壁ぎわにならんだ数台の自販機のうちの一台に硬貨を入れ、選んだ缶コーヒーを受取口からとりだす。
土屋の座ったベンチソファに歩みよった。
「ん」
横いいかという意味で座面を指す。
「ん」
土屋がコーヒーを飲みながらうなずいた。
いいんだと解釈してすわる。
はあ、とため息がでた。
「おつかれ」
「そっちなに。きょうは営業回り終わり?」
涼一は尋ねた。
「おおくまステーキの本社あるけど、二時間ちかく空くから休憩。そっちは?」
「おんざきコーポレーションあるけど、二時間以上あるからやっぱ休憩」
涼一はプルタブを開けた。
こくこくとコーヒーを飲む。
「あの海の一軒家を管理してる不動産屋行ってきた」
ふう、と息をついてそう告げる。
「急に同行人ふえたの何か言ってた?」
「べつに。お友だちも気に入ってくれたなら何よりですってよ」
涼一は答えた。
「あの夫婦のことあるから、さすがにあんま借り手なくて困ってたみたいだったし。――友人がたびたび来たいと言ってましたって伝えてきたから、おまえ俺の紹介っつってそのうち借りてやれ」
「どうするかな。俺一人で行っても、“お友だちはどうしました?” って聞いてきそう、あの夫婦」
土屋が宙を見上げる。
「海外に駐在になりましたって伝えとけ」
「エックスのアカウント所在地がジャパンですってツッコまれたらどうすんの、鏡谷くん」
土屋がそう返す。
「さいごの一日、ひたすら寝てたらほとんど話しかけてこなかったな、あの夫婦」
涼一はうしろに手をつき天井を見上げた。
「遠慮してくれたんでしょ」
土屋が缶コーヒーを口にする。
「鏡谷くん、ほんとひたすら寝てたよね。おもしろいから寝顔撮ってやろうかと思った」
「修学旅行生か、おまえ」
涼一は顔をしかめた。
「いやもう、こっちも横で寝直すたびによく寝れるなあって」
「横でそんなに動いてたの、おまえ。気づかんかった」
ゴトン、と音がする。
五、六人の女性社員が入口すぐのところにある自販機のまえに立ち、目を丸くしてこちらを見ていた。
受取口から飲みものをとりだした女性社員も、しゃがんだ格好のままこちらを凝視している。
いっせいに見開いた目を向けられ、涼一は当惑した。
何かしたかというふうに土屋と目を合わせるが、土屋もよく分からんらしい。
自分たちとは関係ないことかなと目と目の会話で結論づける。
女性社員たちは無言でめいめいに飲みものを買うと、そろって廊下へと立ち去った。
廊下に響く声で会話が聞こえる。
「ちょっ、なに。横で寝てたってどういうこと?!」
「目配せしあってなかった? やだー」
「寝顔がなんて言ってたの?」
わいわいとかん高い声が響く。
「変な人らあつかいされてんじゃねえか」
涼一は顔をしかめた。
「総務課の人たちかな」
土屋が女性社員の立ち去った方向をながめる。
「しかし二時間前後か。何してつぶす気だった?」
缶コーヒーを飲み終えて涼一は尋ねた。
「車んなかで昼寝かな。昼ごはんさっき食べたし」
「まあ、そだな。俺もそんな感じ」
車内ですごしやすい気候なので、だれにも邪魔されない個室という感じでゆっくりしやすい。
「んじゃ、俺の車んなかで」
土屋が自家用車のキーをスラックスのポケットから出してベンチソファから立つ。
「おう」
涼一は、そう返事をして同じように立ち上がった。
社員用駐車場に停車した土屋の車の助手席。
涼一は、スマホにセットしたタイマーの音楽で目を覚ました。
フロントガラスの外をながめる。
さきほどの総務課と思われる女性社員が、二、三人ほど向かい側の車の付近にいた。
こちらにスマホを向けていたが、涼一と目が合うとそそくさと去っていった。
ゴソゴソと動いて、ドリンクホルダーに置いたスマホを手にとる。
タイマーを停止させた。
「おい、時間」
運転席で昼寝している土屋に声をかける。
「あー……」
土屋が目をさましてモソモソと動いた。
「何か、さっきの総務課の人らいた」
涼一は後部座席からカバンをとりだした。フタを開けてスマホをしまう。
「何してたの」
「知らね。スマホで何か撮してたみたいだけど」
「営業二人でならんで昼寝してんの、そんなにめずらしいかね」
土屋が、自身のスマホをとりだして時間を見る。
「考えてみりゃ、それだよな。何でおまえの車でならんで昼寝なんだ? べつに俺は社用車でもいいんだよな」
涼一は顔をしかめた。
土屋がこちらを見る。
「言われてみれば」
二人でしばらく顔を見合わせた。
「……これって」
「こんにちは」
後部座席から、かわいらしいソプラノの声がした。
前席シートのあいだから見える、いつの間にかそこに現れた健康的な美脚。
行員の霊池が、にこやかに座っていた。




