91、魔法のコーヒー①
翌朝は金曜日なので当然登校し、これまで通り、一斉指導の授業をおこなっている教師を公然と無視して、大半の生徒たちが、個別指導のプリント学習をしている光景が全てのクラスで見られた。昨日の昼すぎから、怒涛の時間を過ごしていたため忘れてしまっていたが、半グレとのバトルで顔を潰されたり、銃器で撃ちまくられる数時間前、全校集会で校長から、個別指導のプリント学習をやめないなら、首謀者である私を出席停止にすることを告げられたばかりだった。つい昨日のことである。それをまるでなかったかのようにプリント学習を続ける生徒たち。教師たちの怒りはいかばかりか。
昼休みになると、校長室に呼び出された。そりゃそうだわな。校長室って一度も入ったことはなかったが、入ると奥に校長専用の机があり、そこに校長が座っている。その前に二人掛けのソファが、テーブルを挟んで向かい合わせに設置してあり、そこに教頭と各学年の主任が座っている。椅子はそれ以上ないので私を座らせる気はなく、立ってろという意味だろう。歴代の校長先生の写真が掲げられ、トロフィーや表彰盾などの収まった陳列棚がある。気の弱い女の子なら、たった一人で五人の教師に対面すれば縮み上がるのだろうが、昨日の夕方、四十余りの銃器から一斉射撃を受けたのに、かすり傷一つ負わず生き残れる私に、臆する理由は見つからなかった。
「牧野さん、あなたはなぜ校長室に呼ばれたのか分かりますか?」
校長が訊ねてきた。目が怯えている。それは他の四人の教師も同様だ。教師間でも私の武勇伝は有名だからだ。
「個別指導のプリント学習を私が先導して始めて、それを止めるように昨日の全校集会で警告されたのにもかかわらず、全く止める気がないからです」
「分かっているならなぜ止めないのですか」
「自分たちが間違っているとは思えないからです。出席停止になったとしても、私は登校を続けて学校側と全面対決します。地元の新聞社やテレビ局にも、このことを取り上げてもらえるように交渉します。マスコミを通じながら、SNSも駆使し、私たちの運動を世間の多くの人に知ってもらい、他の中学校でもこの運動が広がるよう尽力します」
正直ほとんどでまかせである。他の中学校にも同じことをしてもらおうと思ったことなどない。自分の中学のことで手一杯なのだ。ただ目の前にいる校長をはじめとする五人の教師が、恐れることを口にすることは心がけた。事なかれ主義の教育関係者が恐れること、それは世間の批判にさらされることだと見当をつけて発言した。そしてそれは大当たりだった。校長が、
「そ、そ、それは困る!」
と狼狽えたからだ。他の四人の教師も顔を見合わせている。今、この中学で起こっている『反乱』を世間に知られて、それを鎮めることの出来ない、管理能力のない教師という烙印を押されたくないのだろう。気持ちいいほど保身を図ることしか考えていない。




