92、魔法のコーヒー②
「じゃあ、こういうのはどうでしょう」
と、私はある考えを提案した。
「昼休み明けの五校時の授業、一、二年生は自習をして、授業をするのは三年生だけにします。三年生の授業を受け持ちしている以外の先生たちと私で、三年生の授業を廊下から授業参観します。時間は十分ぐらいです。その後職員室に戻り、そこで私なりに個別指導の方が正しいと思える理由を、説明させてもらいます。それが済んだら先生がたは、個別指導と一斉指導のどちらが授業方法として、正しいのか優れているのか話し合って下さい。先生方の大半が、自分たちが今までやってきた一斉指導の方が正しいと結論を出したのなら、私はそれに従います。個別指導のプリント学習をやめて、以前の一斉指導に戻るように全校生徒を説得します」
「ほ、本当だな。確かに聞いたぞ。ここにいる五人が証人だ」
教頭が色めき立つ。言質を取ったと言いたいのだろう。校長や教頭らにしたら、こんなおいしい話はない。三年生の五校時の授業を、授業参観にさえすればいい。教師たち全員、生徒たちのプリント学習に頭を抱えているのだから、職員室に戻っても話し合う必要はない。全員が今までやってきた一斉指導が正しいと言うだろう。その結論を私に伝えるだけだ。あとは本人が説得すると言っているのだから、説得させればいい。これで問題は解決、万々歳だ。今から数時間後にはそうなる。
昨日の夕方におこなわれた全校集会では、学年ナンバー1の成績をとり続けている松本に、一斉指導は憲法違反とまで言われ、それを全校生徒のほとんどが大熱狂の歓声で応えたのだ。この生徒間の炎のような団結力を前に、為す術がない校長らにとって、私の提案に乗らないはずはなかった。
「それじゃあ、五校時が始まったら職員室に私がうかがいますので、先生がたを集めておいてください」
そう言って校長室を退室すると給湯室に向かった。給湯室には誰もいなかったので、そこにあったヤカンを一つ無断で拝借し、自販機でペットボトルのコーヒーを数本購入し、ヤカンの中に注いだ。購買部でカッターナイフを買うと、昼休みは誰もいない理科室の中で人指し指の指先を切った。新品のナイフの切れ味は鋭く、指先から滴り落ちる血液が、フタを開けたヤカンの中に入っていく。コーヒーの中に混入されていく自身の血液を眺めながら、量的にもう充分だろうと思ったので、白龍を見た。
私と目が合った白龍は、目線を外すと、それまで通りのんびりと理科室を泳いでいる。以心伝心というヤツで、私の意を汲んだ白龍は、私の指先の出血を止め、その傷口を完全に治してくれた。これで一般人でもオーラが見ることが出来る、『魔法のコーヒー』の完成だ。昨日、私の顔面を殴り潰し、そこから溢れ出る血を勝ち誇って舐めていた半グレのリーダー一岡が、突如オーラが見えるようになった事で半狂乱となった。その隙をついたから勝利したのだが、あの時、私の血を取りこむと、オーラが見えるようになることが判明したのだ。これを使わない手はない。




