90、一斉射撃③
銃口を見ながら私は質問する。
「あのさ、最後に訊くけど、人を殺したり、人のお金を盗んだりして、良心の呵責って無いの?」
「じゃあ最後だから教えてやる。お前みたいに恵まれた家庭に育った奴には一生分からねえだろうが、貧困の中でみじめに暮らしてきた人間が、そこから抜け出す一番てっとり早い方法は、良心を捨てることなんだよ」
「ふーん、なるほどね。でも貧困の中でも犯罪者にならないで、がんばってる人達を代表して、私がアンタをぶん殴るわ」
パウロが笑う。
「それは無理だな。俺に近づくことも出来ないまま、お前は体中に銃弾を浴びて、挽き肉になるんだよ」
そして目を見開いて笑った。
「じゃあな」
一斉に全ての銃口から銃弾が弾け飛び、それは私を中心とした一帯に降り注ぐ。私の体に白龍からのエネルギーが全開に満たされ、その負荷で結膜下出血をおこした私の白目は完全に血に染まり、双眼は白龍と同じ赤眼だ。赤眼の私を周囲の空気が壁となって守った。私に近づくにつれ、圧縮された空気の壁は強固となり、私を貫くはずの無数の銃弾は、発射された瞬間は爆発的な速さを有していたが、空気の壁に阻まれ、すぐに失速し、私の数メートル手前で止まると、そのまま床に落ちていった。
私はパウロを見つめながら、ゆっくりと近づいていく。パウロと周りの半グレは、あり得ない状況に半狂乱になりながら、何度となく装填を繰り返し、銃口から火を噴き続けたが、やがて沈黙がおとずれると、引き金を慌てて引く音だけが空しく響く。全ての銃弾を撃ち尽くしたのだ。目を見開いて震えるパウロに私が言う。
「近づいたぜ」
慌てて逃げようとするパウロの後頭部を左手で押さえながら、右肘を顔面に叩きこむと、鼻を陥没したパウロが、そのまま膝から崩れ落ちて失神する。残りの半グレも私の速さから逃げきれる訳もなく、五秒と立たないうちに全て床に倒れ失神していた。
それから数十秒した後、私を心配した鈴ちゃん、相談役らと、大急ぎでかき集めた三大暴走族の五十人ほどの男たちが、この決戦場に駆けつけるが、今しがた決着が着き、私が半グレナンバー1を倒し、『蛇崩』を全滅させているのを見て、息を呑んでいた。
「すげえ・・・」
顔は血塗れ、制服にも血が付いているが、無事な私を発見し、みんながほっとしている。目が赤いのにびっくりした鈴ちゃんに、鏡を見せられる私。
「すぐに治るよ」
と言い、実際帰りの車中では、すでに治っていた。私たちが通報したので、廃墟ホテルに向かう十台以上のパトカーとすれちがった。
私は血で濡れた制服を親に見られないよう、鈴ちゃんの私服を借りて帰宅して、血塗れの制服は内緒で可燃ゴミに出した。制服の替えはいくつもあるので大丈夫だ。自分の娘が、平穏な学園生活を送っていると信じきっている両親と食事をし、入浴を済ませると、さすがに疲れがたまっていたのかベッドに横になると、一瞬で深い眠りにおちた。業苦の炎の拷問に、蛇崩のメンバーは激しく逆らっていたが、結局一人残らず降参した。
不良世界では、私の知らないところで、牧野リカコ最強説が広がっていった。




