83、スピードスター②
四人目の両手で斧を持って近づいてきた男の目は、私が一人目の男と交戦している位置を捉えていた。つまり、二人目、三人目の男を倒した私が、自分自身に忍び寄っている事に全く反応できていないほど私が、疾風の如く男達の間を駆けめぐっている事を証明している。数メートルジャンプした右の飛び蹴りが、男の顔面に突き刺す。斧を離し、鼻血を空中に撒き散らしながら後方に飛ぶ。ゆっくりと宙に浮かんでいるが、地面に叩きつけられ後、数メートル横転して失神するだろう。薪を割るための斧で、美少女を割ろうとした天罰だ。胸のあたりに柳刃包丁をかざして、突進しようとしている五人目の男も、私が一人目の男と交戦していた場所へと急いでいる。私の左フックで脇腹をえぐられ、沈んでいき、自身の顔面に私の右ストレートが振りおろされ、床に顔から突っ込んでいく事をまるで理解出来ないまま意識はすでにない。
六人目の男からはゆっくりと歩いていた。私との距離が遠かったので、前方の男たちの戦闘状況に応じて反応するためだ。距離があっても私が、二人目、三人目の男を倒しているところまで反応できていなかったので、私にとっては畑に突っ立っているカカシと変わらなかった。六人目のカカシは、片手で日本刀をぶら下げていたが、左の手刀で鎖骨を折り(その事で日本刀を離した)、右の掌底でアゴを突き上げると、数十センチ浮いたまま、ゆっくりと膝から崩れ落ちていく。右手にナタを持った七人目の男は、ナタの背で肩を叩きながら静観していたが、私の左前蹴りが股間に蹴り上げられた瞬間、視界は真っ暗になり、あまりの激痛に前かがみになった所を、右の前蹴りでアゴを砕かれ、切り倒されていく木のように突っ立ったまま横倒しに倒れはじめた。片手で握った日本刀を前に差し出し、刀身を眺めていた八人目の男は、その足元にサッカー選手並みの私のスライディングをモロに受け、横になりながら受け身もとれず床に叩きつけられた所を、そのみぞおちに、私のひじ打ちが深々とのめり込み、両眼を見開いて、悶絶した。
両手で握った斧を、肩に乗せ休んでいた九人目の男は、前屈みの低姿勢で近づく私の左アッパーを急所にぶちこまれ。うずくまるところ、その顔面に右フックを叩き込まれて意識はオフとなって戦闘不能。そしてラストの十人目の男は、片手でナタをぶら下げていたが、人間の動体現力では捉えられない私の高速に、この男も反応出来ないまま、プロレス技のラリアットを見事に食らった。横方向へ突き出された私の左腕を、男の喉に目がけてジャンプして叩きつける。ラストというのもあって、気持ち強めのラリアットを受けた男は、ナタを手放しながら真後ろに数メートル吹っ飛んで着地したあと、床運動の後ろ回りを十メートルぐらいして、リーダーの座っているソファのそばで、大の字になってうつぶせになっている。死んではいないと思う、たぶん。そして元のスタート位置から十メートルほど右側に移動して、呆然と立ち尽くしている金属バットを握った残りの十人の、出方を窺うまでがしめて三秒である。私が最後の位置に戻った時、まだ十人目の男は後ろ回りの最中だった。私は、それほどまでに速い超スピード世界の住人なのだ。




