82、スピードスター①
「てめえ何者だ?」
「フッフッフッフッフッ」
私は笑って答える。
「私の正体は、てめえらみたいな暴力で人を支配するクズ共に、正義の鉄槌を下すため、神が地上に遣わした、超絶美少女戦士牧野リカコ様だ。シャキーン!」
シャキーン! のところで握りしめた左の拳を腰の位置へ、右手を十時の方向にまっすぐに伸ばし、静止して決めポーズである。
「……舐めやがって、お前ら、その生意気な小娘、叩き潰せ!」
猛犬が吠えたかのようなその怒声を合図に、戦闘モードのスイッチの入った二十人の半グレが襲いかかる。
一、二、三。三秒後、刃物を持っていた半グレたちは床に倒れ、手にしていた日本刀、ナタ、斧などが、次々と落下し辺りに響きわたる。金属バットを手にした半グレたちは、何が起こったか分からないまま襲うはずの私の姿を見失い、呆然と立ち尽くす。私が先程まで居た位置から、十メートルも右側に移動していることに気づくと、頭が混乱しはじめているのが手に取るように分かった。スピードが違うのだ。ではこの三秒間で何が起こったのか。途方に暮れている半グレ達にかわって、スピードスターの私が解説しよう。
半グレ・リーダー一岡の、「お前ら、その生意気な小娘、叩き潰せ!」の号令からスタート開始だ。私は瞬時に、襲いかかる二十人の半グレの内、刃物をもった十人を標的に定めた。今でも十分すぎるぐらい美しい私の、これからの伸びしろを考えた時、二十代にはどれほどの絶世の美女に育つのか、想像しただけでもその可能性は国宝級レベルで大切に扱うべきなのに、金属バットで殴打しようと目論むだけでも罪深いところを、増して刃物で私の白い肌を切り裂き、命さえも奪いかねないその暴挙は大目に見ることはかなわないのだ。
十人の金属バットを手にした男達の間を縫いながら、十人の刃物を持った男達に近づいていく。一人目のナタを持った男は、振りかぶって私の頭部を狙ってきた。スピードの次元が違うので、振りかぶっているところで、すでに至近距離まで近づいた私は(相手はもちろん気づいていない)、左の裏拳を鼻柱に叩きこみ、右の拳で腹部に強烈なアッパーをお見舞いする。くの字に折り曲がりながら宙に浮く半グレ。スローモーションの世界にいるのでそのまま宙に浮いたまま、ゆっくり落下していく。二人目の鎌を持った男は、この中で唯一のサウスポーで、左手に持った鎌をサイドスローのように振りかざし、私の胴体を切り裂こうとしてきた。しかし半グレ達が一歩踏み込む同じ時間で、二百歩も三百歩も踏みこめる私は、敵の後頭部をすでに左手で押さえ、右肘を顔面に叩きこんだ後だった。二人目の男も自分の身に何か起こったか分からないまま膝から崩れ落ちる様を、スローモーションでおこなっている。三人目の男は、両手で握った日本刀を低い位置に構え、そのまま突き上げ私を刺そうと走ってきていたが、私の目からは静止画と変わらないぐらい動きのない男に近づき、左回し蹴りを顔面に命中させると、日本刀を離しながら、数メートル吹っ飛んでいる。ほとんど静止画のような遅さで、男は宙を飛んでいる。




